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がん治療に使用される漢方薬

がん治療に使用される漢方薬

がん治療に効果を上げる漢方薬

中国を源流として日本で独自に発達した伝統医学の漢方薬が、がん治療に取り入れられ始めています。西洋医学の治療と漢方薬を組み合わせることで、抗がん剤や放射線治療による副作用の軽減やQOL(生活の質)の向上に効果を上げています。

東京都港区の女性Aさん(63)は2008年に慶応大病院で乳がんの手術を受けました。続いて取り残した恐れのあるがん細胞をたたくため、抗がん剤の点滴投与が始まりました。しかし2回目の投与後、全身に赤いミミズ腫れが浮かび、猛烈なかゆみに襲われました。抗がん剤の副作用です。ステロイド剤の塗り薬を処方されましたが治まりません。

抗がん剤を減らす提案も受けましたが点滴は19回も残っており、効果が薄れるのを心配して治療を続行しました。同時に、開設されたばかりの同病院漢方医学センター受診を勧められました。処方された黄連解毒湯(おうれんげどくとう)を1日3回服用したところ、症状は徐々に鎮まり、2週間後にはほぼ消えました。その後、がんの再発はありません。

当時のセンター長でAさんを診察した渡辺賢治さん(現同大環境情報学部教授)は「黄連解毒湯」は熱を下げ、炎症を取る薬。湿疹やアトピー性皮膚炎の治療にも使います」と解説します。

横浜市在住で乳がん体験者の女性Bさん(52)も治療の副作用に苦しめられた一人です。07年に都内の病院で乳腺がんと診断され、手術前の抗がん剤投与で手足のしびれや食欲不振、むくみ、術後のホルモン治療では火照りやのぼせ、睡眠障害、もの忘れが出ました。主治医の紹介で同じ病院の漢方医の診察を受け、のぼせやめまいに効くとされる女神散(にょしんさん)を処方されました。多くの症状はゆっくりとですが、着実に引きました。

「しびれや火照りといった目に見えない症状をきちんと診察してもらえたのが良かった。しかも、医師が処方した漢方薬は保険がききます。インターネットで宣伝しているサプリメントなどに比べ、安全かつ安価に入手できるのだから使わない手はありません」(Bさん)。現在、148種類の漢方薬が健康保険の適用対象です。

渡辺さんによると、がん治療の中で漢方薬は

(1)副作用の緩和

(2)再発・転移の予防

(3)終末期の苦痛の軽減

に用いられています。


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臨床現場で使われる漢方薬

厚生労働省の研究班がまとめた「がんの補完代替医療ガイドブック」には、下記の六つの漢方薬が挙げられています。これらはいずれも科学的根拠(エビデンス)は確かめられていないものの、臨床現場で使われる頻度が高く安全性が比較的高いとされるものです。

「部分ではなく全身に作用し、体への負担が少ないのが漢方薬の特徴です。西洋医学はがんを取り除くことを重視し、副作用に目を向けてこなかった。そこを補完するのが漢方の役割。再発や転移を予防するとの確かな証拠はありませんが、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)や十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)は免疫力を向上させると考えられています」

漢方薬の科学的根拠を実証

治療の主力はあくまで西洋医学だけに、漢方薬を使うには主治医の理解が欠かせません。しかし現実には、その効果を疑問視する医師が少なくありません。理由は科学的根拠の不足にあります。

国立がん研究センター研究所、がん患者病態生理研究分野長の上園保仁さんは漢方薬の科学的根拠を実証する研究をしています。「私も以前は漢方薬の効果を信じていませんでしたが、2000年以降、質の高い研究論文が発表されるようになりました。

例えば、肺がん治療に使われる抗がん剤シスプラチンの副作用の食欲不振や吐き気には、六君子湯(りっくんしとう)という薬が効くとされています。シスプラチンが食欲増進作用のあるグレリンというホルモンの分泌を抑制するのに対し、六君子湯に含まれる生薬の陳皮にグレリンの分泌を促す働きがあることが、国内の複数の研究で分かったのです」。陳皮とは乾燥させたみかんの皮です。

上園さんの研究班は現在、膵臓(すいぞう)がんに使われる抗がん剤ゲムシタビン投与に伴う食欲不振を六君子湯が改善させられるかを調べています。また、がん治療に使える漢方薬を見いだすための動物実験なども進めています。

漢方薬の副作用

漢方薬自体にも副作用があります。生薬の甘草は、乳がん治療などの抗がん剤パクリタキセルによる筋肉・関節痛を緩和する芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)など多くの漢方薬に含まれています。この甘草を摂取し過ぎると筋肉、消化管、腎臓に障害が出る低カリウム血症を引き起こします。

慢性肝炎から肝臓がんになるのを予防し慢性胃腸障害にも使われる小柴胡湯(しょうさいことう)には、治療の難しい間質性肺炎という重い副作用があります。

「主治医に反対されたため、内緒で漢方治療を受けている」。上園さんが漢方薬への理解を広める市民公開セミナーでアンケートをとると、そんな回答が寄せられることがあります。「漢方薬も医薬品。必ず主治医と相談のうえ、漢方に詳しい医師の処方を受けて服用することが大切です」。

がん治療で使われる六つの漢方薬と適応症

1.大建中湯(だいけんちゅうとう)

手術後の腸管運動まひ、腸閉塞(へいそく)

2.牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)

リンパの流れが停滞することで腕や脚がむくむリンパ浮腫やしびれ

3.六君子湯(りっくんしとう)

胃がん手術後の逆流性食道炎、シスプラチンによる食欲不振、吐き気など

4.半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)

肺がんや転移性大腸がんなどに使われる抗がん剤の塩酸イリノテカンによる下痢

5.芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)

乳がんや肺がんの治療などに使われる抗がん剤のパクリタキセルによる筋肉痛、関節痛

6.十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)

進行乳がんの抗がん剤治療、ホルモン療法との併用での生存率改善、肝細胞がんの予防、進行胃がんの手術後の抗がん剤5ーFUとの併用での生存率改善


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