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胃腸

胃腸の最新治療法


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胃食道逆流症の径内視鏡的噴門部縫縮術 (ELGP)

胃食道逆流症の原因

食道とつながつ胃の入り口を「噴門」といい、内壁がひだ状になっています。ふだんは閉じていても、ものを食べたときに開き、巾着(きんちゃく)の口のような働きをしています。

胃食道逆流症は、噴門がきちんと閉まらなくなり、胃液が食道へ逆流する病気です。巾着の口が緩んだ状態になり、胸がひりひりしたり、熱くなり胸焼けを起こします。この食道の炎症が悪化すると、食道がんになる可能性があります。

胃食道逆流症は高齢になるほど増え、成人の2割以上が胸焼けに悩んでいます。食生活の欧米化などにより、患者が年々増えてきています。油っぽい物を食べ過ぎると、食道と胃のつなぎ目の筋肉が緩み、胃液が逆流しやすくなるためです。

治療法の径内視鏡的噴門部縫縮術(ELGP)

この手術では、胃壁を吸引して針で糸を通す、特殊な装置を使います。装置を内視鏡に取り付けて口から入れ、緩んだ食道と胃の境界部より数センチしたの胃壁を吸引し、糸で2~3ヵ所、縫いつけます。その結果、境界部が巾着状になり、胃液の逆流を防ぎます。

手術時間は約90分で、入院は3日ほどです。手術直後は、胃に違和感を覚える人もいますが、食べ物の通りには問題ありません。手術は内視鏡を何度も出し入れするため、胃壁を傷つけたり、のどを痛めたりする例もあります。また糸が外れる場合もありますが、1か所なら影響はないそうです。

胃食道逆流症には従来、薬による治療と、胸やお腹に開けた小さな穴から内視鏡を入れ、噴門部を締め直す腹腔鏡手術が行われてきました。腹腔鏡手術は全身麻酔が必要ですので、径内視鏡的噴門部縫縮術の方が患者さんには、負担が少ないです。

関係医療機関 慶応大学病院

過敏性腸症候群(IBS)

過敏性腸症候群(IBS)とは

過敏性腸症候群(IBS)は、慢性的なお腹の病気で、検査を行っても腸管に、炎症や潰瘍など目に見える異常が認められないにもかかわらず、腹痛や下痢、便秘、ガス、腹部膨満感などの症状がある病気です。この過敏性腸症候群は、日常生活に支障をきたすことが多いい病気です。

ストレスが原因によって起こることが多く、過敏性腸症候群によって引き起こされた症状が、またストレスのもとになる、といった悪循環を繰り返します。

重症化すると、欠勤や欠席、遅刻が多くなたり、人とのつき合いに支障をきたし、うつ的になる人もいます。

過敏性腸症候群(IBS)の症状

過敏性腸症候群の便通異常

過敏性腸症候群の便通異常としては、下痢型や便秘方、下痢と便秘の交替型があります。

下痢型は比較的に若い人に多く、通学や通勤の途中に、何度もトイレに行くといった症状が典型です。

便秘方は女性に多く、年齢を増すごとに多くなる傾向があり、排便困難が続いたり、いつも残便感があったりもします。

交替型は、下痢と便秘を繰り返すために、気持ちが不安定になりがちになります。下痢を止めようとして薬を飲んだり、食事を制限したら便秘になったり、下痢が続いて便を出しきったら、翌日から便通が無くなったりする場合があります。

過敏性腸症候群の知覚過敏の症状

腸の症状では、腹痛が多く見られ、特に小学生では腹痛が主症状です。その他お腹が張ってガスがでる、違和感がある、お腹がゴロゴロ鳴る腹鳴、排便後の残便感があるなどの症状があります。

人によっては腸の症状だけでなく、胃のむかつきやゲップ、おう吐、食欲不振などの消化器症状や、頭痛、頭重感、異常な発汗、動悸や目まいなどの全身的な自律神経失調症状などの方もいます。

なかには症状が気になり、不安感がつのり仰うつ的になり、不眠になる方もいます。

過敏性腸症候群(IBS)の原因

過敏性腸症候群の原因は、精神面での要因が大きいです。心理的なストレスが発症のきっかけになり、症状を悪化させる要因になることが多いのです。

脳と腸管には「脳腸相関」といって、ほかの臓器より密接な関係があることが、わかっています。腸管には脳の神経管とつながっている腸管神経叢(しんけいそう)があり、脳がストレスを感じると、その刺激が腸管神経叢に伝わり、腸管の運動や知覚などが敏感に反応するのです。そして腸管が反応すると、今度はその刺激が逆に脳に伝わります。

このようにストレスの刺激が腸管に伝わって下痢や便秘、腹痛などが起きると、今度はそれらの症状が脳にストレスを与えるという悪循環が始まるのです。

この他の過敏性腸症候群の原因としては、大腸粘膜の炎症や免疫異常、腸内環境の悪化、食物繊維不足などがあります。

過敏性腸症候群(IBS)の治療法

過敏性腸症候群の原因はさまざまな要因がからみあっていますので、治療は薬物療法や心理療法、生活の改善、食生活の工夫などを組み合わせて行います。

過敏性腸症候群(IBS)の薬物療法

過敏性腸症候群の薬物療法に使うおもな薬は、以下のようになります。

1.消化管機能調節薬

消化管の運動や知覚などに関わるさまざまな要素に作用して消化管機能を調節することで、過敏性腸症候群の症状を和らげ、軽減するように働きかけます。

抗コリン薬(鎮けい薬) オピオイド作動薬 ぜん動抑制止痢薬 セロトニン受容体4刺激薬

2.便の性状を変える薬剤(便性状改善薬)

この薬は下痢の場合は、便の水分を吸収して便を固め、便秘の場合は、便を膨張させて大腸壁を刺激して、便を出やすくしてくれます。

ポリカルボフィルカルシウム

3.対処療法として使うその他の薬

粘膜まひ薬 整腸薬 ガス減少薬 便秘薬

4.自立神経調節薬

トフィソパム ガンマオリザノール

5.抗不安薬

抗不安薬のなかには、少量服用すると自律神経系にさようして、下痢や便秘の症状を改善させるものがあります。

ベンゾジアゼピン系 チエノジアゼピン系 クエン酸タンドスピロン

6.抗うつ薬

過敏性腸症候群では、大腸の知覚過敏により痛みを強く感じることがあり、その場合は、うつ傾向がなくとも三環系抗うつ薬、四環系抗うつ薬などを使うと、少量でそのような知覚過敏を緩和して、痛みを和らげることがあります。

三環系抗うつ薬 四環系抗うつ薬 選択的セロトニン再取り込み抑制薬(SSRI) 選択的セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み抑制薬(SNRI)

7.漢方薬

便通異常や腹部の症状が長く続いて、ほかにもいろいろな症状がある場合など、漢方薬をある程度、長期的に使うと効果がでることがあります。

人参湯(にんじんとう) 大建中湯(だいけんちゅうとう) 加味逍遥散(かみしょうようさん)

桂枝加しゃく薬大黄湯(けいしかしゃくやくだいおうとう)

過敏性腸症候群(IBS)の心理療法

過敏性腸症候群は心理・社会的なストレスと深い関わりのある病気ですので、自分をリラックスさせる自律訓練法、筋弛緩法(きんしかんほう)や心理療法として、森田療法や認知行動療法あるいは、交流分析などを行います。

過敏性腸症候群(IBS)の食生活の工夫

過敏性腸症候群で起きる、下痢や便秘は症状としては反対ですが、根本の原因は腸管の運動機能がうまく働いていないということで、変わりはありません。ふだんの食事では、腸管の運動がうまく働くように調整しましょう。

食事の時間を一定にする

腸管の運動と排便のメカニズムは、「食べる」という行為と密接に関わります。食事のリズムが乱れると、腸管の運動や排便のリズムも乱れますもで、過敏性腸症候群の人は、できるだけ1日3回の食事時間を一定にしましょう。

排便の最初のきっかけとなる胃や大腸反射は、朝に最もよく起こりますので、早起きをしてゆっくり朝食をとると、出かける前に便意が起きて、排便させてから家をでることができます。

また夕食の時間も大切で、夜おそく食事をしますと、朝の食欲がわきにくくなります。結果として朝食を抜いたり、軽くすませてしまいますので、便意が起きずらくなりますので、夕食は早めにすませましょう。

食品の選び方

過敏性腸症候群では、特別に禁止する食品はありません。健康な人と変わりなく、バランスのとれた食事を、腹八分目にとることが大切です。

過敏性腸症候群の人の食事では、食物繊維が重要になってきます。食物繊維は便の骨組みの材料になり、便の量と硬さを調整してくれます。

逆に控えたいのは、冷たいものや香辛料、アルコールや炭酸飲料、カフェインなどです。冷たいものは、胃腸を刺激し、お腹を冷やして腸管の運動機能のバランスを乱します。しかしなんでも禁止しますと、ストレスになりますので、ゆっくり少しずつ飲んだり食べたりしてください。

過敏性腸症候群(IBS)のための生活改善

私たちのからだには、生まれながらに体内時計があります。自律神経系や内分泌系は、呼吸や循環、消化器の働きなど毎日の基本的な生命活動を調整するために働いていますが、生活のリズムが乱れると、そのバランスが崩れ、心身に変調をきたします。

過敏性腸症候群大きな原因に、この生活のリズムの乱れがあげられます。

過敏性腸症候群の方は、起床、3回の食事、就寝の時間を一定に保つように努力してください。起床、3回の食事、就寝の時間が一定になれば、生活全体のリズムが整いやすくなります。

消化管の運動機能低下による機能性胃腸症(FD)

機能性胃腸症(FD)の原因

食事すると、胃腸は収縮して食べ物を消化したり、直腸側へ送り出したりします。この消化管の運動機能が低下して正常に働かなくなるのが、機能性胃腸症(FD: Functional Dyspepsia)です。主にストレスが原因とされ、30~50歳代の女性に比較的多いいです。

内視鏡検査では、粘膜に外見的な異常が見つかりません。このため、従来は「気のせい」「病気ではない」と言われたり、「慢性胃炎」と診断されたりすることが多かったです。

しかし、胃炎と診断して薬を出しても、胃の運動機能低下による症状は、胃炎治療に使われる粘膜保護薬では治りません。「気のせい」と言われた場合も、患者は症状が治まらないため、かえって不安やストレスが増し、悪化する例も少なくなくありません。

消化管の運動機能低下で胃もたれなどが起きることは、専門医の間では1980年代から世界的に注目されていました。そこで、患者に安心感を与えるとともに、治療の対象にしようと付けられた病名が機能性胃腸症です。

1990年代に、胃炎がヘリコバクター・ピロリ菌によって引き起こされることが分かり、この菌の感染を伴わない機能性胃腸症が区別できるようになりました。世界の医師で構成するローマ委員会は1999年、国際的な疾病の診断基準を定めた「ローマ基準2」にこの病気を盛り込みました。

機能性胃腸症(FD)の治療法

治療法も確立しつつある東北大病院総合診療部長の本郷道夫さんが代表幹事を務める日本国際消化管運動研究会は、2004~05年、この疾患とみられる患者1000人を対象に、胃腸の運動を促す薬(モサプリド)の臨床試験を実施しました。モサプリドを服用した患者の91%で症状が改善し、有効性が確認されました。

一方、効果のはっきりしない粘膜保護薬(テプレノン)を服用した患者で良くなったのは52%でしたが、これは薬効のない偽薬(プラセボ)を使った海外の試験データと同程度の改善率でした。患者の半数は、薬を飲むという安心感で症状が改善することが示されました。

モサプリドのほか抗不安薬や、ストレスを緩和させる精神心理療法を併用することで効果をあげています。

埼玉県済生会川口総合病院院長の原沢茂さんは「病気について丁寧に説明すれば、納得して症状が治まる患者も多いいです。家族関係や経済的な問題など、患者の悩みを聞くことでストレスもかなり緩和されます」と話しています。

機能性胃腸症(FD)の診断

この疾患と混同されやすいのが、腹痛や下痢などが表れる「過敏性腸症候群」や、胃酸の逆流で食道がただれる「逆流性食道炎」です。これらの病気でないことを確かめ、内視鏡検査でも問題ない場合に機能性胃腸症と診断されます。

日本人の4人に1人が機能性胃腸症を経験したと見られますが、まだ保険適用される病名にはなっていません。

このため、日本消化器病学会は、この病気に「機能性ディスペプシア」という保険病名を認めるべきだとする答申を厚生労働省に提出して、診療指針の作成の検討も始めました。

関係医療機関

東北大学病院

埼玉県済生会川口総合病院

早期胃がんの切開はく離法

胃がんの内視鏡治療

胃がんは、胃の内側を覆う粘膜の表面から発生し、胃の壁の深くへと進行する。深さと広がりの程度によって、治療法が決まります。粘膜にとどまる早期のがんは、内視鏡で切除するのが標準的な治療です。口から内視鏡を入れ、先端に着けたワイヤをがんの周囲にかけ、高周波の電流を流して焼き切ります。

日本胃癌学会の胃がん治療指針では、内視鏡による粘膜がんの切除は「ワイヤをかけて一度に切除できる大きさが望ましい」とし、その大きさを2センチ以下としています。

国立がんセンター中央病院内視鏡部の後藤田卓志さんは「がんの取り残しを避けるためがんの周辺にゆとりを取って切り取る必要があるので、ワイヤをかけて切除する方法は、実際には基準よりさらに小さいがんが対象になる」と話します。

大きめのがんは、二、三回に分けて切り取る形になるが、分割して切ると、十人に一人程度は、がんのあった部位周辺に再発します。がんの中にワイヤを差し入れるので、取りこぼしが起こるためです。こうした再発は、手術で取り除けば命にかかわることはないため、分割切除も行われています。

ただ、粘膜にとどまるがんでも大きさが3センチほどになれば、通常は胃の三分の二程度を切除する手術を行います。胃が小さくなり、たくさんは食べられなくなります。

切開はく離法

この手術を避けるため、国立がんセンター中央病院は、がんが大きめの場合「切開はく離」を行います。ワイヤをかけて分割切除する方法と異なり、ITナイフという電気メスを使い、患部を一括してそぎ取ります。切開はく離を行うことにより、粘膜がんなら大きくても、手術にならずにすむわけです。

同病院で治療を受けた千人を超える患者のうち、これまで再発した人はゼロです。各地の病院でも、優れた治療成績をあげ始めています。

ただ、後藤田さんは「ワイヤで取る方法が15分程度で終わるのに対し、メスでそぎ取るので一時間ぐらいかかる。通常の方法よりも難しいので、習熟が必要」と指摘します。ワイヤを使う場合より、胃に穴を開けたりする危険が高いからです。

胃がんの病理検査

早期胃がんは治る病気ですが、切除後の組織の病理診断で、治療前の予想より進行していたことがわかれば、改めて手術が必要になります。がんにワイヤを入れて分割して切除する方法では、組織が崩れてこの判定が難しくなります。これに対し、一括切除をすると、病理検査によりがんの広がりを正確に調べることができ、診断上も利点があります。

関係医療機関 国立がんセンター中央病院

大腸がんの最新治療「内視鏡的粘膜下層はく離術」(ESD)

大腸がんの治療

大腸がんの進行度は大きさではなく、表面の粘膜から下にどれだけ食い込んでいるかで判断されます。が んが、粘膜の下の粘膜下層に1ミリ以上食い込んでいますと、すでにリンパ節に転移している可能性がある ため、がんを含む腸管を大きく切除する手術が必要になります。

一方、がんの表面の模様などから、粘膜下層への食い込みが1ミリ未満にとどまると分かれば、内視鏡切 除の対象となり、手術を避けられます。この場合、ポリープ型のがんであれば、根元にかけたワイヤに高周 波電流を流して焼き切る「ポリペクトミー」が行われます。

また、平坦ながんであれば、粘膜下に生理食塩水を注入して病変を隆起させた後、ワイヤで焼き切る「内 視鏡的粘膜切除術」(EMR)で切除できます。

ただ、腸管を傷つける危険などからワイヤの大きさには限界があり、がんの大きさが2センチを超えると 一度に取り切れず、分割して切除せざるを得ません。

分割切除を行うと、がん細胞が腸に残る恐れがあります。実際、分割切除を行った患者の20%近くに再 発が起こります。再発しても、早期に発見すれば再び内視鏡で切除できますが、患者の心身に大きな負担を 強いることになります。このような問題から、特に直径4センチ以上になると、早期がんでも切除手術が選 択されていました。

最新治療「内視鏡的粘膜下層はく離術」(ESD)

そこで登場したのが、「内視鏡的粘膜下層はく離術」(ESD)です。がんを長時間浮かび上がらせるた め、ヒアルロン酸を含む粘度の高い液体を粘膜下に注入し、ITナイフやBナイフと呼ばれる特殊な形状の 電気メスで周囲に切り込みを入れ、がんを一度にそぎ取ってしまいます。

この治療法は、胃がんでは普及していますが、腸壁が薄い大腸では、電気メスの誤操作などで腸管に小さ な穴(穿孔:せんこう)が開きやすく、あまり行われてきませんでした。しかし、近年の器具や手技の進歩 で、導入する病院が増えてきました。

がんをそぎ取った部分の腸管は、厚さ1ミリほどになりますが、数週間で正常な粘膜に覆われて回復しま す。治療2日後にはおかゆが食べられ、3日後には退院できます。

国立がんセンター中央病院(東京都中央区)では今年9月までに、直径2センチ以上の早期大腸がん患者 200人以上に「内視鏡的粘膜下層はく離術」を行い、再発をゼロにとどめています。

もし通常の手術を行うと、直腸がんでは、しばらく頻便に悩まされることが多いです。結腸がん手術でも 、おなかの張りや痛み、排便リズムの乱れなどが起こることがあります。「内視鏡的粘膜下層はく離術」に よって手術が避けられるメリットは大きいです。

ただし、電気メスの操作を誤ると穿孔がおき、放置すると腹膜炎につながってしまいます。同病院内視鏡 部医師の斎藤豊さんは「安全に行うには、高い技術が求められます」と話しています。

医師の技術差が大きい最新治療ですので、治療経験が豊富な病院を選ぶ必要があります。

関係医療機関

国立がんセンター中央病院

便失禁のバイオフィードバック療法

便失禁の原因

便失禁は、肛門を締める括約筋の力が弱まって起こります。

老化などに加え、女性では出産時に括約筋が傷ついて起こる場合もあります。

括約筋の損傷がひどいと、形成手術などが必要ですが、老化が主な原因の場合は、もっと手軽な治療法が あります。弱った筋肉を鍛えて、再び強くするバイオフィードバック療法です。

「便失禁は今もタブー視され、患者数すら分かりません。しかし、誰にも相談できずに悩む人は、想像以 上に多いのではないのでしょうか」。高野病院会長の高野正博(たかのまさひろ)さんは、そう実感しまし た。

バイオフィードバック療法の方法

最近、寝たきり予防などのため、高齢者の足腰を鍛える筋カトレーニングが注目されていますが、肛門の 筋肉もあきらめずに訓練すれば強くできる、というわけです。

ただし、高齢者の場合、おなかに力が入ってしまい、目的である括約筋が十分に動かないことが多いいで す。そこでまず、肛門に括約筋の動きをとらえる細い管を入れ、筋肉を動かします。筋肉の動きは、パソコ ン画面に波形で表示され、患者はこれを見ながら、うまく動かせるようになるまで練習します。

代表的な「肛門内圧法」では、肛門に圧力測定用の細い管を入れます。パソコン画面を見ながら、肛門を 10秒間ほど締め、次に緩めます。この動作を約15分間繰り返します。

この方法は腹圧でも圧力が上がるため、括約筋の力を正確に測れないことがあります。そこで、最近活用 され始めたのが「筋電図法」です。直径5ミリの電極を肛門に入れ、括約筋が動く時に発生する電気を検知 します。

これらの治療は、重症の場合、入院して朝昼晩の3回行います。外来では、状態に応じて月に1-4回繰 り返し、これを3か月間続けます。コツを習得した後は、自宅で1日3回、各10分間実践することで、持 続的な効果が現れるといいます。

医師や検査技師、理学療法士らが協力してこの療法に取り組む同病院では、開始から3か月で7割の患者 の失禁が治まるか軽くなりました。高齢者でも「5-6割が改善します」と高野さんは言います。

低周波電気刺激法の併用

治療効果を高めるため、同病院では「低周波電気刺激法」を独自に取り入れています。整形外科などで腰 痛などに使う電気治療器をお尻にあて、括約筋につながる神経を電気で刺激して筋力を上げます。バイオフ ィードバック療法との組み合わせで、8割の患者の症状が改善しました。

ただし、便失禁のバイオフィードバック療法は健康保険が使えません。

日本大腸肛門病学会は1996年から保険適用を求めていますが、いまだに認められず、実施できる医療 機関は限られています。

便失禁の患者会

2005年秋に、熊本市で「仙骨神経症候群患者会」が発足しました。便失禁に加え、肛門括約筋につな がる神経の障害などから、肛門や骨盤内の痛みなどに悩む患者さんが対象です。年に数回、医師の講演会や 患者同士の交流の場を設けています。お問い合わせは高野病院へ。

関連医療機関

高野病院

鼠径(そけい)ヘルニアのメッシュ治療

鼠径ヘルニアの症状と治療

人の体は、骨や筋肉で守られていますが、部分的に弱点もあります。その一つが、太ももの付け根の鼠径部です。男性では、精巣に行く血管や精子を運ぶ精管、女性では子宮を支えるじん帯などが、内臓を守る筋膜を貫いており、筋膜に開いたこの小さな穴(内鼠径輪)が加齢と共に緩んで広がることなどにより、成人の鼠径ヘルニアが起こります。

慈恵医大病院外科の三沢健之さんは「自然に治ることはなく、悪化すると腸閉そくや腹膜炎を招くこともあります」と注意を促しています。国内の手術件数は年間14万~15万件です。患者の8割以上が男性で、女性と比較して内鼠径輪がもともと大きいためと見られています。

内鼠径輪など、ヘルニアが出てくる穴をヘルニア門と呼び、従来の治療法は、この広がったヘルニア門を縫い縮める方法でした。しかし、加齢で弱くなった筋膜などを引き寄せて穴を縫い縮めると、患部が突っ張る感じが残ります。重いものを持つなどして腹圧がかかると、縫った部分や周辺が裂けてしまうこともあり、再発率は約10%と高かく、手術後は1週間以上の入院も必要です。

最新の治療法「メッシュ治療」

これに対し、1990年ごろから広まったのが、ポリプロピレン製の人工膜で筋膜の穴をふさぐメッシュ治療です。筋膜などの組織を引き寄せる必要がなく、患部に無理な力がかかりません。傷が小さいため局所麻酔で済むこともあり、医療機関によっては日帰り手術も可能なため、急速に広まりました。

当初は、筋膜の穴の上にメッシュをかぶせて固定する方法でした。その後メッシュを筋膜の下に入れる方法が現れ、強度が改善されたため、再発率は約1%にまで低下しました。

現在主流になっているのは、筋膜の穴にメッシュをはめ込む「メッシュ・プラグ法」や「PHS(プロリン・ヘルニア・システム)法」です。メッシュ・プラグ法は、傘状のメッシュを穴に入れ、上から別のメッシュをかぶせて補強する方法です。PHS法は、一体化した2枚のメッシュで穴を上下から補強する方法です。

また、最近注目されているのが、形状記憶のメッシュ(クーゲルパッチ)を使った「クーゲル法」です。鼠径部を5センチほど切開し、筋膜の下にメッシュを差し込みます。筋膜と腹膜の間に入る形となり、体内で元の形に戻って腹圧で固定されるため、縫い付ける必要もありません。三沢さんは「穴を内側からより広い範囲で補強する方法は、力学的に見てもさらに強度が高いです」と指摘します。

メッシュ治療で懸念されるのが、異物を体内に入れることによる拒絶反応ですが、「ポリプロピレンは手術の糸などにも使われ、異物反応の心配がないことは十分証明されています」と三沢さんは話します。なおメッシュ治療には保険が適用されます。

ただし、子供の鼠径ヘルニアの治療にメッシュを使うと、成長にともなって患部に無理な力がかかることが懸念されるため、子供の場合はメッシュ治療は行われません。

関係医療機関

東京慈恵医大病院

イボ痔の新手術「PPH法」

痔の7割を占める「イボ痔」

強い痛みや不快感がある痔は、3人に1人、一生に一度は症状が現れると言われるほど多いです。

痔には、肛門部分にイボができる「イボ痔」、肛門内側が切れる「切れ痔」、膿(うみ)がたまって穴が 開く「痔ろう」があります。このうち約7割を占めるイボ痔が、新手術「PPH法」の対象になります。

従来の手術では、神経が過敏な肛門部分を切り取ったり、薬品で組織を破壊したりしていたことから、手 術後の痛みが非常に強くなります。このため、治療を受けている人は決して多くありません。

これに対し、新しい「PPH法」は、肛門部分を切除しないため、痛みが少ないのが特長です。日帰りで の手術も可能です。

新手術「PPH法」

この方法を開発したオーストリア・セントエリザベス病院大腸・肛門外科部長のアントニオ・ロンゴ博士 によりますと、イボ痔は、肛門上部にある粘膜がゆるみ、ずり落ちて起こります。粘膜に血液が滞留したの がイボで、さらに悪化すると脱肛になります。ロンゴ博士は「ゆるんだ粘膜が下がらないようにすれば痔は 治せる」と考えました。

この手術では、腰椎(ようつい)麻酔をかけ、まず肛門を拡張器で広げ、ゆるんだ粘膜を持ち上げます。 これを、肛門より上の直腸の粘膜に縫いつけた上で、余った粘膜を特殊な器具で輪状に切り取ります。

PPH法は「自動縫合器による直腸粘膜切除術」といった意味なのです。

直腸粘膜には痛みを感じる神経がないため、痛みは従来の手術に比べ、十分の一程度といいます。イボは 血液の滞留がなくなると、自然に解消されていきます。手術時間は30分以内で、外国では日帰り手術が普 通ですが、日本では日帰りはまだ少なく、2、3日の入院が必要な医療機関が多いです。

「PPH法」の術後の経過

すでに1500人以上をこの方法で手術している、湘南鎌倉総合病院の渡部和巨(かずなお)外科部長は 「手術可能な痔の9割に使うことができ、当院では7割以上の人が日帰り手術を受けています。手術翌日か らの排便や入浴も問題ない」と言います。

高齢者でも体への負担が少なく、同病院で手術を受けた最高齢者は93歳といいます。仕事や日常生活へ の復帰も早くなります。

この方法で700人以上に手術した東葛辻仲病院が、患者さんに調査したところ、手術後1週間後に「痛 みと出血がない」と答えた人は従来の方法では5割程度でしたが、「PPH法」では8割近かったです。

一方、広まって数年程度の治療法だけに、「長期成績を見ないと判断できない」と慎重な専門医もいます 。再発してしまう場合も、ある程度あるからです。

「PPH法」は保険適用になっていません。湘甫鎌倉病院では病院側が器具の費用を負担していますが、 施設によっては十数万から数十万円の患者負担が必要になり、費用はまちまちです。

痔の予防

痔の予防として以下のことに注意してください。

1.便秘や下痢に注意

2.尻や肛門を冷やさない

3.肛門をいつも清潔にする

4.ア一ルコールは控える

5.毎日人浴する

6.軽い運動をする

7.同じ姿勢を長時間とらない

8.排便時間を短くし、無理にいきまない

関係医療機関

湘南鎌倉総合病院

東葛辻仲病院

イボ痔の内痔核硬化療法剤治療(ALTA)

粘膜下組織が腫れるイボ痔

成人の3人に1人は痔で悩んでいると言います。肛門付近にイボができる「イボ痔(痔核)」、肛門の皮膚 が切れる「切れ痔」、肛門の周囲から膿(うみ)が出る「痔ろう」があります。その中で半数以上を占める のが、イボ痔です。

イボ痔は、便秘などでいきんだ時に肛門に強い負担がかかり、肛門を閉める括約筋の内側にあって、開閉 の手助けをする粘膜下組織の「クッション」部分が腫れることでできます。直腸側にできるのが内痔核、肛 門側にできるのは外痔核と呼ばれます。

新しい薬物注射療法は、内痔核が対象となります。これには、クッションが緩んで排便時に内痔核が肛門 の外に出たり、出たままになったりするなど、従来は手術が行われてきた重い症状も含まれます。

イボ痔を縮小させる「内痔核硬化療法剤」

この薬は「内痔核硬化療法剤」(商品名・ジオン注)で、2005年3月に発売されました。治療は、まず 括約筋を麻酔で緩めます。次に、痔核1個につき4か所に注射し、薬剤が全体に行き渡るようにします。

注射に要する時間は10-20分程度です。主成分である硫酸アルミニウムカリウムが、炎症を起こした クッション部分を線維化させ、硬くします。すると、緩んでいたクッションが縮み、元の位置に戻る、とい う仕組みです。痔核の中を流れる血液量も減少し、出血が止まります。注射後1週間から1か月ほどで、痔 核が肛門から出なくなると言います。

社会保険中央総合病院大腸肛門病センターなど全国10施設で行われた臨床試験では、この注射療法は、 痔核を切り取る手術に比べて、治療後の痛みや出血が少なく、平均入院期間も手術をした場合の三分の一の 3.6日に短縮されました。

土庫(どんご)病院大腸肛門病センター(奈良県)医師の高村寿雄(たかむらひさお)さんは「軽度の内痔 核が対象だったこれまでの注射療法に比べると、効果が高いです。日帰りでの治療も可能です」と話します 。

「内痔核硬化療法剤治療」の効果

ただし、痔核を除去するわけではないため、臨床試験データでは、注射後1年間の再発率は16%と、手 術の約2%に比べて高かったです。社会保険中央総合病院前副院長の岩垂純一(いわだれじゅんいち)さん は「今後、どれほど効果が持続するか検討が必要ですが、再発しても再度注射できます」と説明しています 。

岩垂さんによると、新しい薬物注射治療法が向かないのは、

1.内痔核のほかに大きな外痔核もある

2.痔ろう、切れ痔、肛門ポリープを伴う

などの症状がある人です。安全性の面で、子供や妊婦、授乳中の女性にも勧められません。

注射療法には、医師の技術も要求されます。薬が適切な場所に届かないと、直腸筋層が壊死(えし)し、 炎症などが起きる恐れがあるからです。そのため、専門医でっくる「内痔核治療法研究会」(代表世話役人= 岩垂副院長)の講習会を受けた医師だけが、この薬を使用できることになっています。

治療には保険が適用されます。岩垂さんは「医師の技術を高め、痔の治療における1つの武器として確立 させたい」と話しています。

その他の痔核の治療法

イボ痔の治療は、食生活や排便習慣などを改善し、症状の悪化を防ぐ「保存療法」が基本です。

出血がひどかったり、脱出によって日常生活に支障をきたしたりする場合は、薬物注射療法、痔核の根元 をゴム輪で締め付け、痔核を取る「ゴム輪けっさつ法」、痔核に血液を送る血管を縛り、痔核を切り取る「 けっさつ切除術」、日帰り手術も可能な「PPH法」などがあります。

手術が必要なのは、患者さんの1-2割程度です。

関係医療機関

社会保険中央総合病院大腸肛門病センター

土庫(どんご)病院大腸肛門 病センター

内痔核治療法研究会

大腸がんの分子標的薬による「個別化治療」

大腸がん

大腸がんとは大きく分けると結腸がんと直腸がんの二つがあります。盲腸からS状結腸までにできるがん を結腸がんと呼び、直腸から肛門までにできるがんを直腸がんと呼びます。そして、この二つをあわせて大 腸がんと呼びます。

また大腸がんは形態によって腺がんと表在性のがんに分けられます。大腸がんの90-95%を占めるの は、粘膜層の腸腺に発生する腺がんです。これは、大腸の内側にできるポリープ(良性腫瘍)の一部ががん 化し、腸壁の内部まで浸潤していくものです。

このタイプの大腸がんは比較的発見が容易です。またポリープががんに変化するまでには何年もかかるた め、ポリープのうちに切除すれば、がんを予防することができます。

これに対し、もう一方の表在性のがんは、初めから粘膜表面にそってがん病巣が広がります。そして、腸 壁の内部に広がったり腸の外側へ飛び出したりしないため、通常の造影剤を用いたエックス線撮影などでは 発見しにくく、進展するまで気づかないこともあります。しかし近年、大腸がんの検査技術は急速に進歩し ており、初期がんでも発見率が上昇しています。

がんは、1981年から日本人の死因の第1位であり、今では3人に1人ががんで亡くなっています。現 在では大腸がんは増加の一途にあり、その死亡者数は、1970年から4倍以上にもなっています。

進行大腸がんで手術ができない方の場合、約10年前には抗がん剤を使用しなければ平均余命は8カ月ほ どでした。現在では、分子標的薬剤を含む抗がん剤治療の進歩により約2年にまで延びてきています。

「分子標的薬」による大腸がん治療

最近の抗がん剤治療の進歩で、特に注目されているのが分子標的薬剤です。がん細胞に特有の変化や遺伝 子を標的とし、その標的に選択的に作用します。従来の抗がん剤と比較し、正常細胞への影響が少ないため 、副作用が少なくなることや、より高い効果などを期待できます。

国内で大腸がんの適応を有する分子標的薬には、血管新生阻害薬(ベバシズマブ)や抗EGFR抗体薬( セツキシマブ、パニツムマブ)があります。

がん治療では、がん細胞の異常な増殖を止めなければなりません。抗EGFR抗体薬は、細胞増殖のスイ ッチであるEGFR(上皮細胞増殖因子受容体)を標的に作用するため、がん細胞の増殖を止めることがで きる分子標的薬です

大腸がんの「個別化治療」とは

抗がん剤治療の前に遺伝子検査を行うことで、一人ひとりに適した治療を選ぶことができます。これは「 個別化治療」と呼ばれ、大腸がんでも実施されるようになりました。

細胞内に存在するKRAS(ケーラス)と呼ばれるタンパク質も、がん増殖に関わることがわかっていま す。したがってKRAS遺伝子を調べることで、セツキシマブなどの抗EGFR抗体薬の効果を予測できま す。

KRAS遺伝子の変異がない場合(野生型)は、抗EGFR抗体薬の効果が期待できます。最新の「大腸 癌治療ガイドライン」でも、KRAS遺伝子に変異がない患者さんへの抗EGFR抗体薬の使用が推奨され ています。

変異がある人は約40%と言われています。変異型の場合、他の治療法を選択して無用な副作用を避ける ことが、医療費を抑えることにもつながります。

したがって、個別化治療の実現に向けて、抗がん剤治療を始める前にはKRAS(ケーラス)遺伝子の検 査が必要になります。

セツキシマブ(商品名:アービタックス)

2008年に国内で発売されたセツキシマブは、「治癒切除不能な進行・再発の大腸がん」と診断された 患者さんが投与の対象です。

また、外科手術による切除が不能と診断された場合でも、セツキシマブと標準的な抗がん剤の併用で腫瘍 を縮小させて切除が可能になると、治癒(5年生存)の可能性が高まることが報告されています。

セツキシマブを用いた臨床試験では、従来の標準治療と比較してがんが悪化するリスクを31%抑制し、 生存期間も約2年にまで延長することが確認されています。

パニツムマブ(商品名:ベクチビックス)

ベバシズマブやセツキシマブと同じく、進行・再発の大腸がんを対象とした分子標的薬です。欧米では大 腸がんの治療薬として認可されていますが、日本では未承認です(2008年6月、武田薬品が製造販売承認申請 を行ないました)。

がん細胞の表面に出ているEGF(上皮細胞増殖因子)の受容体に自ら結合することで、がんの増殖を抑 えるはたらきをします。

パニツムマブは、セツキシマブと違い、完全ヒト化抗体であることから、注射投与中または投与後に現れ るアレルギーによるトラブルが起こりにくいというメリットがあるとされています

しかし、セツキシマブでもこのアレルギーのトラブルはまれにしか起こらないと報告されているので、完 全ヒト化抗体の薬が登場しても、大きな変化にはならないなどの、意見もあります。

海外での治療成績も、セツキシマブとほとんど一緒です。ただ、パニツムマブは薬価が抑えられているの で、少し治療費が安くなるという点で評価されると予想されています。

ベバシズマブ(商品名:アバスチン)

2007年4月に承認された世界初の血管新生阻害薬で、他の抗がん剤と併用することでよい治療成績が 得られています。

がんが増殖するに伴って、がん自身に栄養を供給するために血液を送りこむ血管を新しく作ります(血管 新生)。ベバシズマブは、この血管新生を促すためにがん細胞が分泌するVEGFというタンパク質に結合 して、血管の新生を抑え、栄養を行き渡らせないようにして、増殖のスピードを低下させるはたらきがあり ます。

さらに、がんそのものの異常血管を修復して正常化するはたらきもあります。そうすると抗がん剤ががん に届きやすくなるので、大きな治療効果を得ることができるのです。

ピロリ菌による「萎縮性胃炎」「胃がん」などのリスク

ピロリ菌の感染者

ピロリ菌の感染者は、国内で約6000万人に達します。年配者に多く、60歳以上では約6割が感染し、10歳では約1割にとどまっていると推定されています。背景には、上下水道の整備が進み、衛生状態が改善したことがあります。

保菌者とキスをしたり、同じ鍋をつついたりしても成人の場合は感染しません。しかし、胃の機能が発達していない乳幼児は、注意が必要になります。

国立国際医療研究センター国府台(こうのだい)病院の上村直実院長(消化器内科)は「げっぷで胃のピロリ菌が口に出てくることがあります。その時に子どもに口移しで食物を与えると、感染する可能性はありますが、うがいでほとんどが防げます」と話しています。

ピロリ菌感染による症状

ピロリ菌は毒素を出すため、胃粘膜が炎症を起こして胃炎になります。自覚症状はありませんが、慢性胃炎を経て2-5%が胃潰瘍に、0.2-0.5%が胃がんになるとされています。慢性胃炎から胃漬瘍などになる仕組みはよく分かっていませんが、胃壁が薄くなる「萎縮性胃炎」になると、胃がんになる危険が高まることがわかっています。

杏林大消化器内科の高橋信一教授は「薄くなった胃壁を修復しようと、正常細胞が再生される過程で遺伝子に傷がつき、がん化すると考えられる」と説明しています。

胃がんなどを防ぐには、早期に感染の有無を確認することが重要です。検査は、内視鏡で胃の粘膜を採取して調べるのが一般的です。心臓病などで、血液を固まりにくくする薬を飲んでいる場合などは、呼気を調べる呼気検査、血液検査、便検査を行うこともあります。

胃がんになる危険性は、ピロリ菌検査だけでは必ずしも正確に調べることはできません。萎縮性胃炎があると危険性が高まります。そのため萎縮性胃炎の有無を、血液検査(ペプシノゲン法)で確認することができます。

ピロリ菌検査で陽性でもペプシノゲン法が陰性であれば、胃がん発症の危険性は低いです。ピロリ菌検査が陰性でもペプシノゲン法が陽性であれば危険性は高くなります。ピロリ菌が生息できないほど萎縮性胃炎が進んでいると考えられるからです。

癌研有明病院顧間で、NPO法人「日本胃がん予知・診断・治療研究機構」の三木一正理事長は「胃がんの予防には、ピロリ菌だけでなく、ペプシノゲン法を受けてほしい」と話します。ただ、無症状で菌の有無だけを調べる人や、ペプシノゲン法には保険は適用されません。

ピロリ菌感染症認定医

日本ヘリコバクター学会は昨年、ピロリ菌の知識が豊富な医師を「ピロリ菌感染症認定医」とする制度を設けました。認定医はホームページで公開されています。

関係医療機関

国立国際医療研究センター国府台(こうのだい)病院

杏林大消化器内科

日本ヘリコバクター学会

過敏性腸症候群のラモセトロン塩酸塩錠(商品名・イリボー錠)

セロトニンが原因の過敏性腸症候群

過敏性腸症候群では、大腸を内視鏡で調べても炎症などの異常は見つからないのに、腹痛や腹部不快感を伴う下痢や便秘が続きます。過去3か月間に月3日以上、腹痛や腹部不快感を繰り返し、排便後は症状が改善する場合に過敏性腸症候群と診断されます。

男性は下痢型、女性は便秘型が多いいです。仕事や人間関係などの精神的ストレスや、急性腸炎などの身体的ストレスが発症の引き金になることが知られています。近年の研究で、腸の粘膜などに微少な変化が起きていることが分かってきましたが、原因はまだ解明されていません。

国立国際医療センター国府台病院(千葉県市川市)院長の松枝啓さんは「腸と脳の神経細胞は、人の発生の過程で神経管という同じ神経のもとから生まれ、自律神経で密接につながっています。そのため、脳のストレスが腸の刺激となり、腸の刺激が脳のストレスになります」と語っています。

脳がストレスを受けると、神経伝達物質のセロトニンが腸管の神経組織で増え、腸管の過度の運動や収縮が起きて、突然の下痢や便秘を招きます。また、腸管の痛みの感覚が過敏になり、普通は痛みを感じない腸の蠕動(ぜんどう)運動でも痛みや不快感を感じるようになります。

このような突然の下痢や腹痛で苦労した経験が続くと、電車通勤や長い会議が怖くなり、さらに腹痛や便意を招く悪循環に陥ります。

セロトニンの働きを抑えるラモセトロン塩酸塩錠(商品名・イリボー錠)

治療薬としてよく使われるのが、ポリカルボフィルカルシウム製剤です。人工の食物繊維で、下痢の場合は吸水性、便秘の場合は保水性を発揮して腸管内の便の形を整えます。しかし、効果が表れるまでに1、2週間かかり、腹痛や腹部不快感は改善しにくい難点がありました。

これに対し、2008年に発売されたラモセトロン塩酸塩錠(商品名・イリボー錠)は、即効性や腹痛の軽減効果が期待されます。セロトニンの働きを抑えることで、腸管の過剰な運動や、過敏になった腸の痛みの感覚が脳に伝わるのを防ぎます。

下痢型の男性患者441人が参加した国内の臨床試験では、3か月の服用でほぼ半数の症状が消失、あるいは著しく改善しました。松枝さんは「飲んで2日目には、便が固形に近づくなど効果が表れる人が多く、次第に排便回数も減ります」と言います。しかし、女性は臨床試験の参加者が少なく、効果が確認できなかったため、国は男性の下痢型だけを対象に販売を認めました。

松枝さんは「即効性により通勤時なども安心感が高まり、ストレスが和らいでさらに良くなる人も多いと思います。適度な運動や食物繊維の多い食事なども心がければより有効です」と話しています。

過敏性腸症候群のチェックリスト

□ 腹痛を伴う下痢(便は泥状、粘液が出ることも)。

□ 便秘、あるいは便秘と下痢を交互に繰り返す。

□ 時折、うさぎの糞のような便が出る。

□ 排便後は腹痛が収まることが多い。

□ 排便後、残便感はあるが、便は出ない。

□ ガスがたまりやすい。

□ 午前中の腹痛が多く、午後からは回復する。

□ 体重の変化はなく、食欲も普通にある。

□ すぐトイレに行けない状況で症状が出る。

□ 睡眠時や休日には症状が出ない。

□ 症状が1カ月以上持続している。

当てはまる数が多いほど、過敏性腸症候群の疑いが高くなります。

関係医療機関

国立国際医療センター国府台病院

関連ページ

過敏性腸症候群(IBS)


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