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「分子整合栄養医学」(オーソモレキュラー療法)による躁うつ病(双極性障害)治療

躁うつ病(双極性障害)とは

躁うつ病は、エネルギー不足のうつ状態からエネルギーに満ちあふれた躁状態に突然、変化し、ある期間 をへて、再び、うつ状態にもどるというパターンをくり返します。その特徴は、発症と再発が、予測できる 一定のサイクルで起こることです。

躁とうつをくり返すといっても、境目がはっきりしている人とそうでない人がいますし、症状や周期も人 によっていろいろです。躁とうつの期間もさまざまですが、一般に躁の方が短いようです。

ただし、躁状態からうつ状態への1サイクルの時間が、24時間以内に再発するものは低血糖症で、ここ で問題にしている、躁うつ病ではありません。

躁うつ病には、1型と2型の二つがあります。1型の方が、躁が激しいものです。この躁の強さによって 、双極1型、双極2型という分類をされます

1型の躁は、大体の場合、非常に気分がよく、やる気もあり、自分では絶好調のつもりで新しいことを始 めます。しかし、すぐ気が変わり、いろいろなものに手をつけるので、実際の仕事ははかどりません。また 、ささいなことで激怒します。

人によっては、「自分は選ばれた特別な人間だ」とか、「自分はすごい超能力がある」などの誇大妄想、 幻覚・幻聴などが出たりします。

2型の躁は社会生活を営めるくらいの躁(軽躁)で、激しく怒ったり妄想が出たりはしません。眠らなく ても平気で、気分は高揚し、まわりとも活発に交流し、一見何も問題ないように見えます。しかし、「軽躁 」は立派な病的状態なので、注意深く見ると、「ふだんの本人」よりも少し違った感じがします。

本人も、単純に楽しいわけでは決してなく、イライラが募ったり疲れがたまったりしています。はた目か らは楽しそうに見えても、実はかなりのプレッシャーがかかり、無理をしています。1型ほどではなくても 、新しいことを始めたり、ほしいものを次々と買ったり、目移りしたり、話が飛んだり、衝動的だったりし ます。

「分子整合栄養医学」からみた躁うつ病の原因

「分子整合栄養医学」(オーソモレキュラー療法)とは、身体のアンバランス・代謝を改善することによ り、脳と身体に可能な限り最適な生化学的環境を与える治療法のことです。それには、最適な食事と栄養治 療、つまり必要なビタミン、ミネラル、アミノ酸、酸素、ホルモン、必須脂肪酸など人体にもとから存在す る、天然の物質を利用して行います。

「分子整合栄養医学」からみた躁うつ病の原因は、

1.アセチルコリンの過敏

2.ビタミンB群と魚油の不足

3.バナジウムの過剰

の3つがあげられます。

アセチルコリン過敏が原因で発生する躁うつ病

NIH(アメリカ国立衛生研究所)の研究者は、躁うつ病者は、脳の記憶にかかわる伝達物質であるアセチル コリンに過敏であると報告しています。彼らは、アセチルコリンを受け取るキャッチャーである受容体に着 目したところ、躁うつ病者では、アセチルコリンの受容体が健常者にくらべ著しく増加していることを発見 しました。つまり躁うつ病者ではアセチルコリンが、はたらきすぎるのです。

アセチルコリンの過剰なはたらきを抑えれば、躁うつ病を改善できます。アセチルコリンのはたらきを妨 げる物質の1つは、だれでも脳内に微量に持っているリチウムです。これは、炭酸リチウム製剤として躁う つ病の治療に現在もっとも使われている薬です。しかし、リチウムによる治療には問題があります。

大量に摂取されたリチウムは、アセチルコリン受容体ばかりか、他の受容体のはたらきも妨げるため、気 分、感情、記憶に好ましくない影響を及ぼします。

たとえば、アメリカで行われた健常人を対象にした試験では、リチウムの摂取によって喜びや悲しみの感 受性が鈍くなることが報告されています。

わそれから、リチウムが記憶力を低下させることも判明しています。また、躁うつ病をやわらげるのに必 要とする大量のリチウムの摂取は神経ネットワークに有害で、多くの患者に身体の震えを発生させるばかり か、甲状腺の機能を低下させます。これによって代謝が弱まりエネルギー不足になるので、気分が落ち込ん だり、その反動で脳が興奮しすぎて、心が混乱してしまいます。

リチウムの大量摂取には、このような副作用がともないます。しかしリチウムの代わりに躁うつ病を治療 する物質して、タウリンというアミノ酸があるのです。タウリンは脳内でまるでリチウムのようにはたらき 、なおかつ安全な物質です。抑制性伝達物質のタウリンは、アセチルコリンのような興奮性伝達物質の効果 を相殺します。

しかも躁うつ病者の脳内では、タウリンレベルが極端に低下していることが判明しています。タウリン不 足は、甲状腺の機能を低下させ、眠気、うつ病などを引き起こしますが、この影響は男性よりも女性に大き く、たとえば、躁うつ病の発症率は女性が男性の2倍になっています。リチウムの代替に、1回500ミリ グラムのタウリンを1日3回摂取するのが効果的と思われます。

ビタミンB群と魚油の不足が原因で発生する躁うつ病。

躁うつ病者の80パーセントにビタミンB群の不足が見られます。しかも彼らの多くは、貧血気味で、ビ タミンB12や葉酸のレベルが低いばかりか、健常者にくらべて、脳を興奮させるセロトニンや記憶にかかわる アセチルコリンを適切に働かせるのに欠かせない、イノシトールの取り込み量も少ないです。

ビタミンB群は脳と身体でブドウ糖からエネルギーをATPの形で取り出す時に働く補酵素で、エネルギー生 産には欠かせません。ただし、ビタミンB群が脳ではたらくには、まず、オメガ3脂肪酸(魚油)を主成分と する軟らかい膜を通過し、神経細胞の内側に取り込まなければなりません。

では、脳内でのビタミンB群不足を引き起こす原因はなにか。それは最近、魚を食べる量が減り、神経細 胞の膜を硬くする、牛肉、豚肉、ソーセージ、ピザ、ファストフードからの飽和脂肪酸やマーガリンに含ま れる非天然型のトランス型脂肪酸の摂取量が増えてしまつたからです。このため、膜が硬くなり、神経細胞 が受け取る伝達物質やビタミンB群の量が限られてしまつたからです。

この結果、脳内でのシグナルの伝達に異常が発生してしまうばかりか、ビタミンB群不足のせいでエネル ギー欠乏になり、うつ病が発生することになります。しかし、オメガ3脂肪酸とビタミンB群を摂取すること で、脳内でのシグナルの伝達が正常化し、ビタミンB群の活躍によってエネルギーが脳に充満するので、うつ 病から脱却できるのです。

ここでいうオメガ3脂肪酸(魚油)は、DHA(ドコサヘキサエン酸)とEPA(エイコサペンタエン酸)のこと で、どちらも脳の神経細胞の膜や伝達物質の受容体の膜の成分ですが、サプリメントとして摂取した場合の 抗うつ効果は、DHAがEPAよりも高いです。これは、DHAのほうがEPAよりも脳の関所である血液ー脳関門を楽 に通過できることとよく一致しています。

バナジウムの毒性が原因で発生する躁うつ病

躁うつ病は、天然のミネラルであるバナジウムの過剰によっても発生します。一流医学雑誌の「ランセッ ト」や「イギリス精神科ジャーナル」には、躁うつ病患者の毛髪や血液中のバナジウムレベルが極度に高い こと、そしてバナジウムレベルの上昇によって、躁状態が引き起こされることが報告されています。

過剰なバナジウムが脳や身体にとっての有毒物質となっているのですが、幸いなことに、大量のビタミン Cの摂取によって、脳や身体が受けたダメージから回復できます。ビタミンCはバナジウムの毒性を軽減する のですが、このしくみはまだ解明されていません。おそらく、ビタミンCが電子をバナジウムに与え、バナジ ウムの酸化状態を下げることによって、その毒性が減少するものと推測できます。

それから、躁うつ病者のビタミンCレベルは、壊血病の発生する直前まで低下していることがあります。 ですので、ビタミンCの補給は必須です。この場合、1日に3-4グラムのビタミンCを3回に分けて服用す ることが推奨されます。

(注意:壊血病(かいけつびょう)はコラーゲン不足によって、血管が切れやすくなり、全身から出血す る病気です。この病気原因を調査している過程で、ビタミンCが発見されました。)

躁うつ病に効果効能があるサプリメント

タウリン

EPA DHA

ビタミンB群

ビタミンC

躁うつ病改善のワンポイント・アドバイス

タウリンは1回150mgを朝食後とタ食後、1日2回摂取してください。

EPA DHAは1回5ミリリットル(5g)を朝食後とタ食後、1日2回摂取してください。

ビタミンB群は1回250mgを朝食後とタ食後、1日2回摂取してください。

ビタミンCは1回300mgを朝食後とタ食後、1日2回摂取してください。

躁うつ病とうつ病は違う病気

躁うつ病とうつ病は似ていますが、まったく違う病気です。躁うつ病とうつ病では、症状が異なり脳内で の栄養バランスの物質も異なります。

うつ病はトリプトファン、フェニルアラニン、チロシンなどが不足しておこります。またうつ病とされて いる患者の内3分の1は、躁うつ病なのに、うつ病と誤診されていると言われていますので、注意が必要です 。

物忘れ・特発性正常圧水頭症による痴呆の手術療法

特発性正常圧水頭症の原因

脳の中では、髄液と呼ばれる液体が作られ、脳内と脊髄を循環し、脳のクッションの役割をしている。水 頭症は、髄液の流れが滞って脳内の空間(脳室)が広がり、脳の他の部分が圧迫されるために、様々な症状 が現れる病気です。

特発性正常圧水頭症は、髄液の圧力は正常ですが、歩行障害、痴呆、尿失禁の3症状が出るのが特徴で、 60歳以降に発症しやすいです。

国内の痴呆患者は170万人前後に上り、このうち5%程度は、正常圧水頭症が原因と考えられています 。痴呆の中でも、例外的に手術で治すことが可能な病気です。

特発性正常圧水頭症の手術

脳内を圧迫する髄液が、脳室にたまらないよう、通り道を作る手術を行います。腰に注射器を刺して髄液 を抜き、症状が良くなるようなら、手術の効果が期待できます。

国内で主に行われている手術は、脳室にチューブを刺し入れ、背中から皮膚の下を通して腹部の空間(腹 腔)までチューブを延ばし、たまった髄液を抜く「脳室腹腔短絡術」(VPシャント)です。チューブには、 髄液の排出を調整するバルブがついていて、手術後にも調整できます。

チューブの入り口を作る必要があり、頭や皮膚を数か所切り開きますが、全身麻酔で1時間程度で終わり ます。手術の後、8割以上の人は歩行障害が改善し、痴呆症状も半数以上は1年以内に治まるそうです。3 割は、介助がほぼ不要になるほど回復します。

手術には、頭に傷をつけない方法もある。髄液の通り道となる背骨の腰付近にチューブを入れ、腹腔に流 す「腰椎くも膜下腔腹腔短絡術」(LPシャント)です。総合南東北病院(福島県郡山市)、横浜南共済病院 (横浜市)などが多く手がけている。手術法が違っても、治療成績に差は見られないといいます。いずれの 手術にも保険が適用されます。

この病気のことがほとんど知られておらず、治療すれば良くなるはずの人が、治療を受けていない方が多 くいます。限られた専門医にしか実態が認識されておらず、ほかの病気と誤診されている人もいるのが実情 です。

関係医療機関 総合南東北病院 横浜南共済病院

特発性正常圧水頭症のサイト 特発性正常圧水頭症iNPH

手術による「てんかん」治療

てんかん

てんかんは、脳の電気信号の伝達異常によって、突然意識を失って倒れたり、けいれんを起こしたりしま す。自動車の運転免許を取れないほか、発作で日常生活に大きな支障を与えます。原因は脳腫瘍や、胎児期 に大脳が形作られる際の異常、頭部外傷や脳卒中などさまざまあります。患者は1000人あたり5-10 人と言われ、決して珍しくない病気です。

抗てんかん薬は患者の三分の二に有効とされています。しかし、薬で改善しない場合を「難治性てんかん 」と呼び、人口の0.1%程度の患者がいます。病変が脳全体に及ぶものと、局所にとどまるものがあり、 難治性でも局所にとどまれば手術が可能です。手術は脳の病変を切除したり、異常な電気信号が出る部位を 切断したりします。手術で全体の95%は発作が以前より少なくなり、その八8-9割は発作が完全に消え ると言います。手術できる患者は国内で年3000-4000人に上るとされています。しかし、年間手術 数は500件程度にとどまっています。

「専門医とされる神経内科医でも、手術は危険で効果が小さいと思いこんでいる場合が少なくない」と、 国立精神・神経センター武蔵病院手術部長の大槻泰介さんは指摘します。

手術によるてんかん治療

手術で改善しやすいのは、脳中心部の海馬と呼ばれる部位に、委縮や硬化が見られる「内側型側頭葉てん かん」や、腫瘍や大脳の形成異常が原因のものなどです。画像で異常が見つかる場合が多く、手術自体は数 10年前から行われていたが、治療成績はここ10年ほどで飛躍的に向上しています。画像診断の進歩で、 てんかんの原因となる病変が正確に特定されやすくなったためです。

脳の構造の変化などを見るため、以前から使われてきた磁気共鳴画像(MRI)に加え、脳の血流を見る単 光子放射型コンピューター断層撮影(SPECT)、ブドウ糖代謝を見る陽電子放射断層撮影(PET)、脳の電気信号 の変化をとらえる脳磁図(MEG)などが登場し、診断、治療の大きな力になっています。

大槻さんは「手術で確実に治るてんかんがあることを知ってほしい。従来難しいとされた場所も手術がで きるようになり、後遺症も減っている」と言います。

2002年には日本神経学会で、てんかんの治療指針(ガイドライン)がまとめられ、手術の有効性も盛 り込まれています。大人では、薬を飲んで二、三年経過を見ても改善しない場合は、手術の検討対象となり ます。子どもの場合、てんかんが成長に及ぼす影響が大きいことを考慮し、早めに手術することが多いです 。発作を起こすことで、日常生活にどの程度支障が出るかも、手術の判断基準となります。

検査や手術などの入院期間は約二か月。治療には保険が適用されます。ただし、脳手術だけに、全体の1 %弱には手足のまひや言葉の障害など、重大な後遺症が出てしまいます。手術を受けても改善しない人も5 %程度います。日本てんかん学会認定医がいて、手術ができる施設は20程度あります。手術経験の豊富な 施設で十分な説明を受け、納得の上で手術を受けること決めてください。

てんかんの薬物治療

脳全体に発作が広がり、意識を失い体を硬直させてけいれんを起こす「全般発作」にはバルプロ酸(一般 名)、脳の嘉の機能が間題を起こし、けいれん、しびれ、幻聴などを起こす「部分発作」にはカルバマゼピ ン(同)が第一選択薬として使われています。

薬で効果がない場合、手術が検討されます。日本神経学会の「てんかん治療ガイドライン(指針)」がホ ームページで公開されています。

関係医療機関 国立精神・神経センター武蔵病院

関連サイト 日本神経学会 日本てんかん学会

パーキンソン病の脳深部刺激療法

パーキンソン病

手足の震えや筋肉のこわばりといった運動障害が起きるのが、パーキンソン病の特長です。詳しい原因は 不明ですが、ドーパミンという脳内の神経伝達物質が不足するために起きます。50-60歳代に多く、患 者は国内で約10万人、国の特定疾患(難病)に指定されています。

ドーパミンを薬で補うのが治療の基本ですが、病気の進行に伴って効果が徐々に薄れてきます。服用始め は薬がよく効いていますが、次第に症状が進行し、薬の量を上限まで増やしても足が動かなくなり、顔の筋 肉のこわばりで言葉すら出ないような状態になったりします。

脳深部刺激療法

日大板橋病院(東京・板橋区)脳神経外科では、脳に電極を埋め込んで、電気刺激を与える「脳深部刺激療 法」の手術を行っています。この手術は1970年代末から痛みの治療法として研究され、意思と関係なく 、震えるような不随意運動を抑える効果もあるとして、パーキンソン病にも90年代から導入され始めまし た。

電気刺激装置は、バッテリーを含むパルス(電気抽動)発生装置と電極からなり、規則的に電流を送ります 。狭心症の治療に使う心臓ペースメーカーを、脳に応用した形です。

手術はまず、MRI(磁気共鳴画像)で撮影した脳の画像を基に、コンピューターを使い、電極を埋め込む位 置を決めます。

頭部に二か所の穴を開け、脳の視床下核という部分に、極細の電極の針を刺します。1ミリの位置のずれ で効果に大きな違いが出る、精密さを要求される手術です。

さらに、右鎖骨下を切り開いて胸にパルス発生装置を埋め込み、脳に刺した電極と線をつなぐ手術を行い ます。微弱な電流の刺激が、神経伝達の流れを調節し、不随意運動を抑制すると考えられています。

睡眠時は電流を切っても良いですが、基本的に24時間、流したままです。月に一度通院し、効き具合な どを見てもらい電流を調整します。体外からのリモコンで、操作が可能になっています。

完全に元通りになるわけではありませんが、服のボタンを留めたり、食べ物を口に運んだりといった日常 の動作ができるまでに回復します。ドーパミンを補う薬の量は、手術前より少なくなります。

ただ、脳の深部にかかわる手術だけに危険もあります。最も重大なのが脳出血で、約2%に起こります。 またパーキンソン病そのものが治るわけではないので、効果がいつまで続くかは、病気の進行にもよります 。すでに最重症の人では、この手術をしてもあまり効果が期待できません。中程度の病状の人が、最も適し ていると言われます。

手術は2000年から保険適用になり、特定疾患の認定患者は、さらに公費負担が受けられます。

パーキンソン病の薬物治療

パーキンソン病の治療の基本は、脳内の神経伝達物質ドーパミンが不足しているのを、薬で補うことです 。

代表的な薬は、脳内でドーパミンに変化する物質を補充する「Lドーパ」という薬です。

効果は強い反面、吐き気や幻覚といった副作用を引き起こすこともあります。最大の難点は、何年も使っ ているうちに、しだいに効き目が落ちることで、量を増やすにも限界があります。

このためドーパミンを受け取る側の神経細胞の働きを強めようという「ドーパミン受容体刺激薬」もよく 使われ、新薬の開発も進められています。

関係医療機関 日大板橋病院脳神経外科

メニエール病の治療「早期の生活改善」と「薬物療法」

メニエール病の症状と原因

メニエール病は、内耳を満たしているリンパ液が過剰になり、「水ぶくれ」になる病気です。内耳は、平衡感覚をつかさどったり位置を感知したりする三半規管や耳石器などの器官が集まっています。これが水ぶくれでうまく働かなくなり、耳鳴り、難聴、ぐるぐる回る回転性のめまい発作が繰り返し起きます。悪化すると治療は難しく、厚生労働省の特定疾患(難病)に指定されています。患者は十万人当たり十数人ほどで、女性の方が多いです。

水ぶくれの原因は不明ですが、ストレスによる自律神経や内分泌系の失調が一因とも見られています。東海大教授の高橋正紘さん(耳鼻咽喉科)は患者200人を詳しく調べ、発症に個人の性格が関連していることを突き止めました。

親や上司の期待に沿うよう努力し、嫌なことは我慢するなど、人からの評価に敏感で徹底的に仕事をする人が、そうでない人より二倍以上、発症しやすいことが分かりました。

メニエール病の「早期の生活改善」

メニエール病は生活習慣病ですので、治療として徹底した生活指導が行われます。

1.週何回かは、汗をかく程度の運動を行う。

2.毎週一日は必ず休日を取り、自分の楽しみに時間を使ってストレスを発散する。

3.長時間労働を避ける(夜9時以降は仕事をしない)。

以上のように、体に負担をかける生活を改めます。

高橋さんは「メニエール病はライフスタイルが影響する生活習慣病。進行すると治療は難しいが、発症から一年以内の早い段階で生活を改善すれば完治も見込める」と強調します。同病院は月曜日午後、めまい外来を開いています。

メニエール病の「薬物療法」

一方、薬物療法を行う医療機関もあります。埼玉医大名誉教授で新宿恒心クリニック、めまい.平衡障害・耳鳴りセンター長の坂田英治さんは「中耳腔ステロイド剤注人法」を実施しています。

めまいは、内耳の器官が異常に反応し、それが脳に伝わって起きます。ステロイド剤にはこの興奮を鎮める作用があり、中耳に薬剤を注入し、その奥の内耳にしみこませる方法です。

鼓膜に注射針を刺し、10秒ほどかけて中耳に流し込みます。これを1-2週間ごとに2-3回行います。坂田さんによると、病状が早期なら、約八割の患者に症状の改善など効果がありました。ステロイド剤は局所への注入なので、副作用は心配ないそうです。

こうした内耳への薬剤の局所投与は、厚生労働省研究班も効果を詳しく調べる研究を進めています。

坂田さんは「めまいや耳鳴り、難聴は、脳梗塞など命にかかわる病気が原因の場合もある。症状があれば、早めに専門医を受診するべきだ」と話しています。

関連医療機関 東海大学医学部付属病院 新宿恒心クリニック

耳鳴りの苦痛軽減治療TRT

耳鳴りの原因

「キーン」「ザー」といった雑音が聞こえる耳鳴り、半年以上続く慢性の耳鳴りは、重症だと不眠やうつ 症状を伴って日常生活に支障をきたします。

耳鳴りは、カタツムリの形をした内耳の器官「蝸牛」(かぎゅう)に加齢などで異常が起き、発生するこ とが多いとされています。完全に消す方法はなく、放置されることが多かったですが、苦痛を軽くする治療 「TRT」が試みられています。

苦痛軽減治療TRT

TRTはtinnitus retraining therapyの頭文字で「耳鳴り順応療法」と呼びます。1994年に米国で考案 され、ヨーロッパなどで普及して、日本では2002年に導入されました。

「耳鳴りの音自体は変わらないのに、急につらさが増すことがある。発生源は耳ですが、苦痛を悪化させ るのは脳内の現象と考えられます」と慶応大病院で難聴・耳鳴外来を担当する済生会宇都宮病院医長の新田 清一さんは話します。

私たちは普段エアコンなどの音や雑踏の音は意識しませんが、人ごみで自分の名前を呼ばれると、さほど 大きな声でなくても気づきます。「重要」「危険」と思われる音を脳が判断・選択しているのです。

耳鳴りは、疲れなどをきっかけに急に起きることが多いため、「耳が聞こえなくなるのでは」といった心 配が、不眠や冷や汗など自律神経系の反応を引き起こします。耳鳴りに気持ちが集中するほど、脳が「危険 信号」と過敏に反応する悪循環を生み、苦痛が増すと考えられます。

TRTの治療法は、2つの方法で行われます。

  1. 耳鳴りのメカニズムを知るカウンセリング
  2. 別の音を使って耳鳴りに慣れる音響療法

慶応大病院では、耳鳴りの強さや聴力などの検査後、耳鳴りがどうして起きるか、なぜ苦痛に感じるか、 といった知識を丁寧に説明します。患者の希望や状況に応じて臨床心理士の面談も行います。「受診者の約 8ー9割は軽症。説明を受けて納得し、苦痛が緩和される人が多い」と新田さんは話します。

重症患者には「音響療法」を行います。音を聞き続けることで、耳鳴りも「危険な音ではない」と脳に認 識させる目的です。ラジオの音や音楽でも効果はありますが、「TCI」という専用の機器があります。

補聴器に似た形で、ザーといった4種類の音が出ます。自分にあった音を、耳鳴りを完全に消さない強さ に調整、一日6-8時間装着します。1-2年は続ける息の長い治療です。保険はきかず、一台63000 円(税込み)しますが、同大では「苦痛が軽減した」「やや軽減」と答えた患者さんが、計約8割にのぼって います。

この治療を行う病院はまだ少なく、慶応大では患者の方が2-3か月待ちの状態といいます。耳鼻咽喉科 教授の小川郁さんは「耳鳴りをうまく忘れるには、静かな場所やストレスを避けること。TRT療法は、耳鳴り を小さくしたり消したりする治療ではないことを、理解して受けてほしい」と話しています。

関係医療機関 慶応大病院 済生会宇都宮病院

関連サイト シーメンス社(TRT療法を 行う医療機関を紹介)

脳卒中の新しいリハビリ法「CI療法」

脳卒中のリハビリ

脳梗塞など脳卒中の後遺症で、左右どちらか一方の腕や足に運動障害(片まひ)が起こることが少なくあり ません。足のリハビリは歩けるようになることを目指しますが、腕や手は、短時間のリハビリを毎日続けて もあまり効果がない場合、まひしていない腕で食事や字を書くことができるよう、指導を切り替えることが 多いです。

新しいリハビリ法「CI療法」

これに対し、まひした腕を集中的に訓練する、新しいリハビリ法「CI療法」があります。1989年ごろ からアメリカで始められ、英語の頭文字をとって「CI療法」と呼ばれています。

(CI=constraint induced movement therapy 訳「脳卒中片まひの集中訓練」)

この方法は、健常な腕を使わないようにした上で、まひした腕を使う訓練を毎日長時間、2-3週間かけ て行うのがポイントになります。

CI療法は日米以外にもイギリス、ドイツ、韓国など7か国以上で実施され、脳の外傷、脳性まひといった 脳卒中以外の患者に応用された例もあるといいます。

兵庫医大病院と、分院の篠山病院では、2300年以降、47-81歳の男女20人にCI療法を実施しま した。何も握れなかった人が、包丁を使えるようになるなど、14人で改善が見られました。一般に、後遺 症が出てから時間が経過してしまうと回復しにくいとされますが、発症後16年以上たっても、ある程度動 くようになった例もあります。

なぜ、腕の動きが回復するのか、同医大教授の道免和久(どうめんかずひさ)さんは「脳細胞に柔軟性( 可塑性)があるため。集中的な訓練で、運動をつかさどる大脳皮質の障害のない部分が、障害のある領域の機 能を果たすようになる」と見ています。

ただし、訓練は過酷です。同医大では、健常な腕を使わないよう三角きんで縛り、まひした手の訓練を毎 日5時間、その訓練を10-14日間行います。作業療法士らが付きっきりで「タオルを動かす」簡単な動 作から、「小銭をつまむ」「蝶結びをする」など、複雑な動作へと進めていきます。訓練項目は62通りに も及びます。

患者は単調な動作を繰り返す訓練に忍耐を強いられます。それでも、あきらめていた手の動きを取り戻す 、喜びは大きいです。従来のやり方では「動く方しか訓練しない」と、物足りなかった患者の不満も解消さ れます。

CI療法の適用基準

しかし、重いまひの場合、機能回復は難しいです。2004年からCI療法を導入した自衛隊中央病院リハ ビリテーション科医長の越智文雄さんは「この治療の対象者はかなり限定され、脳卒中の片まひ患者の二割 ほど」と話します。

道免さんも「まひが消えて元通りに回復する〃奇跡の治療"ではない」と言い、指や手の関節を自力であ る程度動かせるなどの適用基準を設けています。

適用基準は兵庫医大、同篠山病院の基準では、まひしている側の手首が手の甲の側に20度以上動かせて 、さらに親指を含めた3本の指が10度以上伸ばせることとしている。訓練初期はまったく手や腕が動かな いのに長時間、単調な動作を繰り返さなければならないので、患者自身の強い意欲、集中訓練のストレスに 耐えられる精神力、血圧や他の病気が安定していることなども求めています。

CI療法の現状

この治療は、日本神経学会などがまとめた「脳卒中治療ガイドライン」でリハビリの一つとして推奨はし ていますが、普及していません。医療機関が請求できるリハビリの診療報酬は短時間に限られ、作業療法士 が長時間患者に付きそうには、見合わないことも一因とみられています。

関係医療機関

兵庫医大病院

篠山病院

自衛隊中央病院

脳梗塞の新薬 tPA(組織性プラスミノーゲン活性化因子)

脳梗塞

脳梗塞は、動脈硬化で脳の動脈が狭くなつたり、心臓などからはがれ落ちて流れてきた血栓によって、脳の血管が詰まる病気です。脳細胞に栄養や酸素が送られないと、細胞が死に、半身まひなどの後遺症や最悪は死亡にもつながります。

脳梗塞のほか、脳内の血管が破れる「脳内出血」、脳血管にできたコブ(脳動脈瘤)が破れる「くも膜下出血」の3疾患を合わせて脳卒中と呼びます、患者は計約140万人にものぼります。死因別では、がん、心臓病に次いで3番目に多いです。その脳卒中の死亡者のうち、脳梗塞が6割以上を占めています。

脳梗塞には従来、血栓を溶かす効果的な方法がなく、脳梗塞が広がるのを防ぐ薬などが投与されてきました。そこに登場したのがtPA(組織性プラスミノーゲン活性化因子)です。血栓に吸着して効率よく血栓を溶かし、脳の血流を速やかに再開させます。

脳梗塞の新薬 tPA(組織性プラスミノーゲン活性化因子)

まず使用量の1割を静脈注射で急速に投与した後、残る9割を点滴で1時間かけてゆっくりと投与します。アメリカの脳梗塞治療の指針は、発症後3時間以内(超急性期)に、この方法を最優先すべき治療法として勧めているほか、世界約40か国で認められています。

日本でも1990年代初めに臨床試験(治験)が始まりましたが、薬の特許を巡り、日米企業問で訴訟紛争が起きて中止となりました。そのあおりで、日本は世界の流れから取り残されていました。

この薬は心筋梗塞治療としては既に承認されていましたが、今回ようやく脳梗塞についても追加承認されました。欧米に遅れること約10年ということになります。

国内の治験では、脳梗塞の発症後3時間以内にtPA治療を行うと、3か月後には、ほとんど後遺症を患うことなく社会復帰できた割合が37%でした。アメリカでの治験もほぼ同じで、社会復帰の割合は処置しない場合よりも5割も高かったです。

tPA(組織性プラスミノーゲン活性化因子)の副作用

しかし、全員に効果があるわけではないうえ、副作用もあります。tPAの早期承認を訴えてきた日本脳卒中学会理事で札幌医大名誉教授の端和夫(はしかずお)さんも「血栓を溶かすtPAは、脳出血を起こしやすくなります。使用の際、医師は細心の注意が必要です」と指摘します。

発症から長時間たった後にこの薬を使うと、脳出血の恐れが高まり、効果も乏しくなります。そこで、治療の対象は

  • 発症後3時間以内
  • CT(コンピューター断層撮影)検査で、脳出血の危険性が低いことを確認

などの場合に限られています。

患者・家族にとって重要な点は「脳梗塞を起こしたら、3時間以内に病院で治療を受ける」ことです。しかし、国立循環器病センターの調べでは、発症後3時間以内に受診した患者は19%しかいません。「脳梗塞と気づくのが遅れた」「救急車を呼ばずに自力で来院した」などが原因です。

アメリカは、早期の脳梗塞治療を呼びかけるキャンペーンを行い、成果を上げています。救命率向上のため、日本でも同様の取り組みが必要です。

脳梗塞の症状とtPA治療

脳梗塞の症状としては

  1. 片方の手足など半身の動きが急に悪くなる
  2. .突然ろれつが回らなくなる、言葉が出にくくなる
  3. 片方の目が見えにくくなる、視野が狭くなる
  4. 突然ふらつき、歩けなくなる
  5. 意識がなくなる

本人の自覚がないこともあるため、これらの症状に家族が気づいたら、すぐ救急車を呼んでください。

ここで紹介したtPA治療は、発症から長時間経過していると脳出血の危険性が高まることから、日本脳卒中学会は施設として

  • CTまたはMRI(磁気共鳴画像)による検査が24時間可能
  • この治療を熟知した医師が勤務

などの条件を挙げています。

関係医療機関

国立循環器病センター

札幌医大病院

脳腫瘍(しゅよう)の「覚醒手術」

脳腫瘍の手術

脳腫瘍は、異常な細胞が脳内で増殖する病気です。治療には腫瘍をできる限り多く切除することが必要で すが、腫瘍の位置によっては摘出の際に脳組織を傷つけ、体のマヒや失語症などが残る恐れもあります。

「腫瘍を多く切除しつつ、後遺症を防ぐ」この二律背反の難題を解決したのが、「覚醒手術」です。

覚醒手術

手術台に横たわる患者に、医師がパソコン画面の単語や絵を見せ、「この三つの単語をつなげて文章を作 って下さい」と話しかけます。

「かべに ペンキを ぬる」と答える患者、医師は「大丈夫そうですね。言葉のもつれなど違和感はあり ませんか」と問いかけを続けます。

患者は、頭の骨の一部を外され、脳がむき出しの状態ですが、意識は鮮明です。執刀医は患者の受け答え の様子を見ながら、脳腫瘍を電気メスなどで慎重に摘出していきます。

その間にも、患者とやり取りする「反応テスト」を担当する医師が頻繁に声をかけ、氏名や住所、趣味な ども尋ねます。手を握ったり開いたりさせ、まばたきや舌の動きも見ます。

手術中は、医師が病変付近を電気や器具で刺激します。会話が途切れる、物の名前を言えない、顔が引き つるなどの異常な反応が出たら、その付近の腫瘍はそれ以上取りません。東京女子医大脳神経外科教授の堀 智勝さんは「従来の手術に比べ、安全で効果の高い治療ができます」と話します。

脳を包む硬膜は刺激で痛みを感じますが、脳組織自体は痛みを感じません。そこで、まず全身麻酔で頭の 骨を切開する「開頭」を行ってから、麻酔を中断して意識を回復させます。

この間に反応テストをしながら腫瘍を摘出し、再び全身麻酔をかけて頭部を閉じます。約10年前、効き も目覚めも早い麻酔薬が登場して、実施されるようになりました。

従来の手術では、腫瘍全体の7割程度を取れれば成功とされてきましたが、同大でこれまでに手術した約 60人の患者では、平均で約95%の量の腫瘍を摘出できました。良性の脳腫瘍の場合、4年後の生存率は 100%と、通常の手術に比べ2、3割高いです。3割程度の患者に一時的な言語障害やマヒが見られます が、数か月以内にほぼ消えると言います。

この手術は脳腫瘍のほか、脳血管にこぶができる海綿状血管腫、突然意識を失うてんかんなどにも実施さ れます。

ただ、脳の部位と働きには個人差が大きいです。そこで、言葉を発したり運動したりする際、脳のどの部 分が働くかを調べるため、覚醒手術に先立ち、測定用電極を埋め込む手術を行う場合が多いです。

さらに、覚醒手術中に脳のMRI画像も撮影するため、手術時間が9時間程度と、従来の2倍近いです。 患者には体力と忍耐も必要で、東京女子医大は15~65歳の患者に行っています。

保険がききますが、反応テストなどにスタッフも数多く必要なため、一部の大学病院でしか実施されてい ません。

関係医療機関 東京女子医大脳神経外科

関連ページ 手術による「てんかん」治療

がん(脳腫瘍)の放射線治療「サイバーナイフ」

放射線治療「サイバーナイフ」

神経や血管、組織が密集している頭や顔、首(頭頸部:とうけいぶ)の手術は、できるだけ避けたいものです。患者には、手術に耐えるだけの体力がない高齢者らも多いです。その点、メスを使わない放射線治療なら患者の体の負担が少ないです。ただし、通常の放射線は照射範囲が広く、微細な部位には使えないです。そこで、精密に照射できる最新鋭器「サイバーナイフ」が、放射線治療の新たな可能性を広げています。

サイバーナイフの仕組みはこうです。あらかじめ作成した画像に2方向から撮影したエックス線画像を重ね合わせて病巣を正確にとらえます。これを基に、6か所の関節を持つクレーンのようなロボットアームが、患者の体の微妙な動きに即応して位置を自在に変えながら、アーム先端の小型リニアック(直線加速器)から放射線を照射します。

リニアックは患者の頭頸部の周囲100か所のポイントから各12方向に照射します。最大1200本の放射線を病巣の形状に合わせて、方向と強さを変えて照射し、体が大きく動くと中断して誤射を防ぎます。

サイバーナイフは1992年、アメリカで開発されました。ロボットアームの動きは、巡航ミサイルが動く標的を追跡して撃ち落とす軍事技術が応用されており、照射の誤差は1ミリ以内と精度が高いです。メスのような鋭い切れ味の「電脳ナイフ」が名前の由来です。

従来、脳神経外科の放射線治療には、ガンマ線を照射する「ガンマナイフ」が多用されてきました。サイバーナイフと比較しても効果に違いはありませんが、ガンマナイフは重い金属フレームを患者の頭がい骨にねじで固定するため、痛みが多少あります。治療できるのは基本的に頭がい骨内にある3センチ以下の病巣に限られています。

これに対しサイバーナイフは、メッシュ状の固定用マスクをはめるだけです。何日にも分けて広い範囲に照射し、大きな病巣も治療できます。「針の穴に糸を通す」精度で、ガンマナイフでは治療できない頭がい底や頸部、脊髄(せきずい)の周辺、眼球と眼球の間など、頭がい骨の外にある病巣でも治療できます。

サイバーナイフの治療対象

頭頸部腫瘍のほか、くも膜下出血を引き起こす動静脈奇形や三叉(さんさ)神経痛なども治療できます。

治療は麻酔をせずに約1時間で、照射後に吐き気、発熱などが起こることがありますが、数日で治まります。叉神経痛などを除く、多くの疾患で健康保険が使え、治療費の自已負担は通常、3割となります。

関東脳神経外科病院サイバーナイフセンター長の井上洋(いのうえひろし)さん(群馬県藤岡市・神経機構研究所長)は「放射線を病巣に集中させるピンポイントの照射ができるので、頭頸部に最適ですが、今後、肺がんや乳がんなどにも広がるでしょう」と話しています。

ただサイバーナイフ装置は1台数億円と高価で、目下、全国で14施設にあるのみです。

ガンマナイフ

ガンマナイフは1968年、スウェーデンで開発された放射線治療装置です。

国内には1990年に初めて導入された。コバルト60を放射線源にして、頭部を覆うヘルメット型コリメーターの201個の穴からガンマ線を放射します。虫眼鏡で光を一点に集中する要領で、病巣を焼き切ります。

主な設置施設は日本ガンマナイフサポート協会のホームページで分かります。

関係医療機関

関東脳神経外科病院(埼玉県)

脳神経外科聖麗メモリアル病院(茨城県)

おか脳神経外科病院(東京都)

新緑会脳神経外科病院(神奈川県)

津島市民病院(愛知県)

蘇生会総合病院(京都府)

大阪大学病院(大阪府)

岡山旭東病院(岡山県)

厚南セントヒル病院(山口県)

済生会今治病院(愛媛県)

共愛会 戸畑診療所(福岡県)

九州大学病院(福岡県)

大分岡病院(大分県)

熊本放射線外科病院(熊本県)

藤元早鈴病院(宮崎県)

関連ページ

三叉神経痛のガンマナイフ治療

脳卒中の後遺症治療「経頭蓋磁気刺激治療」(TMS治療)

脳卒中の後遺症

脳卒中は脳の血管が詰まったり、破れたりして脳に損傷を与える病気です。脳梗塞、脳内出血、くも膜下出血の3疾患を合わせて脳卒中と呼びます。脳卒中の患者は年間130万人以上で、年間医療費は約1兆9千万円にもなる国民病です。そして多くの場合、体がまひ(運動障害)する、後遺症が残ります。突然身体が動かなくなるため、患者の精神的ショックは大きく、脳卒中になった初期の7割の方はうつ病になります。

まひ(運動障害)の一般的な治療法は、リハビリテーションになります。しかし、それには限界があり、発症してから60日までは眼に見えて回復しますが、それを過ぎると回復が鈍くなり、4ヶ月を過ぎるとそれ以上の回復は見込めなくります。

新たな治療法「頭蓋磁気刺激治療」(TMS治療)

脳卒中の後遺症の治療に、画期的な実績を上げているのは、東京慈恵医大病院の安保雅博医師が行っている経頭蓋磁気刺激治療(TMS治療)です。経頭蓋磁気刺激装置という磁気を発生させる機械を使って、頭の上から運動神経を刺激する方法です。

人間の脳は大きく左右に分かれていて、右の脳は左半身の動き、左の脳は右半身の動きをつかさどっています。経頭蓋磁気刺激装置で右の脳に磁気の刺激を与えますと、神経回路を伝わり左半身が動きます。

頭蓋磁気刺激治療(TMS治療)は、損傷を受けていない、正常な側の脳に磁気刺激を与えます。20分間の磁気刺激治療を受けた後は、1時間のリハビリテーション(CI療法)を行います。この治療法により、わずか2週間ほどで驚くべき回復をみせます。そのうえ発症から10年以上たった患者さんも、この治療法によって回復します。

頭蓋磁気刺激治療(TMS治療)のメカニズム

人間の脳は右が損傷した場合、反対の左の脳が、動かない右の脳の働きを助けをすると考えられてきました。しかし安保雅博医師は逆に、正常な脳が損傷した脳の回復を妨げていると考えました。そのため経頭蓋磁気刺激装置で、正常な脳の働きを磁気で抑えてみたところ、脳の損傷した部分の周りが、活発に機能しはじめたのです。

頭蓋磁気刺激治療(TMS治療)は、正常な側の脳の働きを磁気刺激により一時的に抑えて、損傷した脳の機能を回復させるのです。

治療は入院によって行われ、期間は10日から14日間ほどです。現在この治療は健康保険適用外ですが、研究段階のため治療費は病院側が負担します。ただし入院費とリハビリ費用は患者負担(健康保険適用)になります。

治療の適応基準

上肢(腕と手)のまひ、さらに腕を固定して指が1本でも開く動作ができる、患者さんのみに、この治療が適応されます。

経頭蓋磁気刺激治療は足のまひには、効果がありません。その理由は手や腕を動かす脳の部分は脳の表面にあるのに対して、足の運動をつかさどる部分が、脳の奥にあるため、磁気の刺激が十分届かないからです。このため安保医師は、磁気よりも強い電気刺激による治療方法を現在研究中です。

また脳卒中による失語症に対しても、経頭蓋磁気刺激治療による実績が少なく、効果は未知の部分が多いです。失語症の原因は、言語中枢をつかさどる左側の脳の損傷が原因になります。失語症は身体のまひよりも未知の部分が多いですが、現在身体のまひと同じく、正常な右の脳に磁気刺激を与えて、治療を行い一定の成果をあげています。

関係医療機関 

東京慈恵医大病院 

清水病院(鳥取県)

関連ページ

脳卒中の新しいリハビリ法「CI療法」

画像診断装置PETによる脳疾患の早期発見(アルツハイマー病 パーキンソン病)

PTEによるアルツハイマー病の診断

高齢化とともに増加するアルツハイマー病やパーキンソン病などの早期発見に、画像診断装置PET(陽電 子放射断層撮影)が有効であることが分かってきました。元々、脳機能を観察するために開発された装置で 、実際の診療で脳の検査に使う医療機関もあります。

脳は体内で最もブドウ糖を消費する器官です。アルツハイマー病は脳の神経細胞が委縮して、記憶障害が 起きる認知症の一種で、委縮した部分の活動が鈍り、ブドウ糖の消費が減ります。PETによる診断は、こ のブドウ糖の取り込みを調べます。

PET画像では、脳活動の活発な部分が赤色に、逆に活動の低下した部分は青色で表示されます。アルツ ハイマー病の人の脳は健常な人に比べ、耳側の頭頂部付近の活動が低下していますので、アルツハイマー病 の方の画像は青く染まります。

PET診断の特長は、CT(コンピューター断層撮影法)やMRI(磁気共鳴画像)ではとらえにくい早期の アルツハイマー病を把握できる点です。

全国でも数少ない頭部専用のPETを持つ県西部浜松医療センターでは、過去2年間にアルツハイマー病 が疑われる患者約60人を検査して、8割をアルツハイマー病と診断しました。

同センター医長の尾内康臣さん(先端医療技術センター)は「MRI、CTは脳の様子を写真のように映 すのは得意だが、外形的な変化が出ていない早期のアルツハイマー病の診断は苦手です。その点、PETは 形状変化が表れる前の脳機能の変化を読みとれます」と説明します。

ただ、アルツハイマー病と診断されても、打てる手は多くありません。進行を半年ほど遅らせる抗認知症 薬があるほかには、リハビリが試みられている段階です。それでも早期診断できれば、家族らが病気に配慮 した適切な接し方ができるうえ、本人にも日常や社会生活での留意点をアドバイスできます。

PTEによるパーキンソン病の診断

手足の震えなどの症状が表れるパーキンソン病の早期診断にも、PETは活用され始めています。

この病気は、脳の神経細胞が変性し、神経伝達物質のドーパミンが減少することで起きます。検査にはブ ドウ糖の代わりに「CFT」という薬剤を使います。この薬剤は、ドーパミンを作り出す神経細胞に付着す るため、薬の集まり具合を見れば、病気の初期でも活動低下の様子が確認できます。

同センターでは、過去1年間に約20人が、この検査でパーキンソン病と診断されました。手足の震えな どの症状が出る前から発症を“予測”することも可能です。ただ、薬剤が特殊なため、検査できる施設は全 国でも少ないです。

PETによる脳検査を実施している東京都老人総合研究所付属診療所長の石井賢二さんは「診断で、アル ツハイマー病やパーキンソン病の進行を遅らせることが期待できます。治療法の向上によって、普及が進む はず」と語っています。

現状では保険は適用されず、約10~40万円の診断料は全額自己負担か、医療機関が研究費で負担して います。

画像から病状を読みとる技術を備えた医師がまだ少なく、医師の養成も課題になっています。

関係医療機関

県西部浜松医療センター

東京都老人総合研究所付属診療所

ウェルニッケ脳症(ウェルニッケ・コルサコフ症侯群)

ウェルニッケ脳症 は脳の「脚気」(かつけ)

ビタミンB1不足が進むと「脚気」になるが、ダメージを受ける身体の筒所によって、乾性、湿性、脳の3種類があります。

乾性脚気は末梢神経と筋肉がダメージを受けるケースで、歩行困難、筋肉痛、スクワット(屈伸運動)ができなくなるなどの症状があらわれます。

湿性脚気は心臓がダメージを受けるケースで、心悸亢進(しんきこうしん)、浮腫による心臓の肥大、呼吸困難などの症状があらわれます。最終的には、うっ血性心不全で死にいたります。

脳にダメージが発生したケースが脳脚気で、とりわけ、アルコール依存症患者がウェルニッケ脳症(ウェルニッケ・コルサコフ症侯群とも)を発症しやすいです。

ウェルニッケ脳症には3つの特徴的な症状があります。目の玉が一点を見つめたまま動かなくなる(眼球運動麻痺)、歩行がおぼつかない(歩行異常)、場所や時間、人物などがわからなくなる(記憶障害)などです。この記憶障害をコルサコフ精神病と呼んでいます。

ほとんどのウェルニツケ脳症患者は、アルコール依存症患者ですが、胃がんやエイズ患者にもみられます。

ウェルニッケ脳症患者はみな、ビタミンB1が不足しています。その証拠に、B1を静脈注射すると、眼球運動麻痺が迅速に改善します。しかし、歩行異常や記憶障害の改善はそう単純ではありません。回復度合いは、症状のあらわれた期間が長びくほど悪化します。

最近の研究で、ウェルニッケ脳症では、脳の特定の箇所にフリーラジカルによるダメージが発生していることが発見されました。このことから、ビタミンB1不足によって脳のダメージが起こる際に活性酸素がかかわっていることが推測できます。

ビタミンB1不足の原因

ビタミンB1不足は、B1の摂取不足以外にも、B1要求の増加、B1の人体からの過剰排泄、食事からの抗チアミン(ビタミンB1)因子の摂取などによっても起こります。

アルコールを多量に摂取しますと、食物をしっかり食べない傾向があるので、ビタミンB1の摂取不足におちいりやすいです。しかも飲酒によって、ビタミンB1の腸管からの吸収が妨げられますから、さらに不足しやすくなります。酒を飲むと記憶がおぼつかなくなるという人は、ビタミンB1不足かもしれません。

糖類の代謝にはビタミンB1が大量に消費されるので、糖類をたくさん食べる人も不足しやすくなります。激しい運動や発熱、妊娠、授乳、思春期の成長の際にも、多くのビタミンB1が消費されます。

利尿剤を服用すると、ビタミンB1の腎臓における再吸収が妨げられるばかりか、尿中への排泄が進みます。アルコールをたくさん飲んだときも、尿量が増えるためビタミンB1の排泄が促進されます。茶、コーヒー、ベテルナッツには抗チアミン(ビタミンB1)因子が含まれているため、多く摂るほどビタミンB1は失われます。

ハマグリやアサリなどの貝類、ワラビやゼンマイなどの山菜を生で食べると、B1がこれらの食物に含まれるチアミナーゼによって壊されます。この場合は、加熱調理して食べればいい。チアミナーゼは加熱によって不活性化するので、B1の分解を防ぐことができます。

ウェルニッケ脳症の治療法

ビタミンB1を投与することにより、早めに治療を始めるのが一般的です。数日間ビタミンB1を1日1000ミリグラムほど静脈注射し、その後は150ミリグラムほど内服で補充する場合が多いです。

アルコール依存になっている方が多いので、アルコール依存に対するリハビリテーションや、末梢神経障害が併発することがあるのでリハビリテーションが必要となることがあります。

痙縮治療の「髄腔内バクロフェン療法」(ITB療法)

脳性マヒや脳卒中の後遺症「痙縮(けいしゅく)」

足や手、指などが筋肉の過度の緊張によって内側や外側にねじれたり、曲がったりする状態は、痙縮(けいしゅく)と呼ばれています。脳性マヒや脳卒中などの病気や、事故による脊髄損傷などをきっかけに、筋肉を動かす脊髄からの信号に狂いが生じて起こります。

治療法はこれまで、筋弛緩剤を飲む方法が一般的でした。しかし、口から飲んだ薬は脳や脊髄に届きにくく、重度の痙縮には十分な効果が得られませんでした。

効果が高い「髄腔内(ずいくうない)バクロフェン療法」(ITB療法)

これに対し、髄腔内(ずいくうない)バクロフェン療法は、腹部に入れた直径約8センチ、厚さ約2センチのポンプから、1日0.1cc前後の筋弛緩剤「バクロフェン」(商品名:ギャバロン髄注)を、脊髄が通っている背骨の中の髄腔に直接注入します。口から飲む方法よりも、少ない投与量で効果が高く、眠気やふらつき、頭痛などの副作用を減らせる利点もあります。

この方法は、欧米では15年以上前に導入され、痙縮の一般的な治療法として普及しています。国内ではようやく2006年から、重度の痙縮の治療法として健康保険が適用され、約170万円のポンプや薬剤が使えるようになりました。

国内の臨床試験は、脊髄損傷や脊髄血管障害、脳性マヒ、頭部外傷などで、重度の痙縮に悩まされる25人を対象に行われました。その結果、24人の下肢の痙縮が軽くなるなど、高い改善効果が認められました。東京女子医大病院脳神経外科講師の平孝臣さんは「この治療の対象になる患者は5万人以上」と話しています。

薬剤は約3か月に1度、腹部に注射針を刺してポンプに注入します。1日の投与量などは、医師が操作するパソコン型の端末から、ポンプに電波を送って調整できます。ただし、電池寿命のため、5年~7年に一度、手術でポンプを交換する必要があります。

脳神経外科と整形外科が治療の窓口になりますが、治療を行う医師は、講習会の受講が義務づけられています。

平さんは「筋肉の緊張や痛みを取ると、リハビリの効果も上がります。今後は、リハビリ科との連携を深めて治療にあたりたい」と話しています。

関係医療機関

東京女子医大病院脳神経外科

施設情報

ITB療法ウェブサイト

脊髄損傷者専門トレーニングジム「ジェイ・ワークアウト」で歩行回復

脊髄損傷

脊髄損傷とは事故や病気で背骨の中を通っている中枢神経が傷ついて、腕や足が麻痺(マヒ)してしまう ことです。現在、日本に10万人以上いると、いわれています。一度傷ついた脊髄は二度と再生しません。 このため日本の医療界では一生、歩行は困難と考えられています。

脊髄損傷者専門トレーニング

アメリカのカルフォルニア州サンディエゴにあるプロジェクトウォーク社(Project Walk:P.W.)は、世 界で初めての脊髄損傷者専門のトレーニングシステムを確立させました。1999年に設立され、これまで に約2000人の脊髄損傷者を歩行可能にした実績があります。その効果を紹介した論文は科学雑誌 「Spinal Cord」に掲載され、全米で注目されました。

日本でも2007年に東京都江東区豊洲に、脊髄損傷者専門のトレーニングジムが設立されました。ジム の名前は「J-Workout(ジェイ・ワークアウト)株式会社(J.W.)」、代表者は渡辺淳さんです。

渡辺さん自身も10代のころ、脊柱管狭窄症にかかり2年間歩くことがでなかった経験をもっています。病 気が治ったあと、アメリカに渡って、プロジェクトウォーク社に入社しました。2006年にアメリカ人以 外では初めて、最高クラスのトレーナー「スペシャリスト」の資格を取得しました。

トレーニング方法

その方法は、歩くための基本的なトレーニングとして、脊髄損傷者を宙刷りにして歩行マシーンに立たせ ます。そしてトレーナーが声をかけながら足を動かして、歩く動作を反復させます。

これは、歩くために足をどのように動かすか、意識させるトレーニングです。

このレーニングがどのような理論で、行われているのでしょうか。

脳からの命令は背骨のなかの中枢神経を通って、手や足を動かしています。この脊髄が損傷すると、脳の 指令を伝えるルートが途絶え、手や足が麻痺してしまうのですが、一度切れた神経は二度とつながりません 。

しかし少しでも神経が残っていた場合、その残った神経に歩行機能を再教育するというのが、このトレー ニング理論なのです。このため残った神経に歩行機能をおぼえ込ませるために、同じ動作を何千、何万回と 繰り返します。

そしてこのトレーニングのもう一つの特徴が、使われなくなった筋肉をトレーニングすることです。

本人の意思でなくとも、他人に手足を動かされることで、筋肉はそれにつられて動きます。このため他人 が筋肉を動かすことでも、筋肉がつくそうです。

車椅子生活が続くと、使わない筋肉は衰えやせ細ります。歩ける日のために、トレーナーの助けを受けな がら筋肉を鍛えます。

従来の日本のリハビリ

日本の医学界では、一般的には脊髄損傷になった場合、もう歩けるようには、ならないと考えられていま す。このため車椅子で生活ができるリハリビが行われ、歩行ができるためのリハリビは行われていません。

ジェイ・ワークアウトの新たな取り組み

2010年6月からジムの7階に、渡辺さんは就労支援センター「プロジェクトワーク」を立ち上げまし た。ジムは脊髄損傷者の身体の状態を把握していますので、それに合わせて仕事を探すことができるのです 。

プロジェクトワークは、「就労移行支援事業所」として東京都から認定を受けています。パソコンソフト の使い方やマナー、面接訓練、英会話など就労に必要な知識や技術の習得のためのプログラムを提供するほ か、就職活動や職場定着のための支援を実施しています。

また2009年から新しい試みとして、二分脊椎(にぶんせきつい)などの先天性の病気によって歩行困 難になった、脊髄損傷児の受け入れもはじめました。アメリカのプロジェクトウォーク社では先天性の病気 の児童は、受け入れ対象外ですが、日本のジェイ・ワークアウトは子供の関節や筋肉などを細かくチェック して、歩行回復の可能性を探ります。

関連医療機関

ジェイ・ワークアウト(東京都江東区豊洲1丁目2-34TNKビ ル 5・6F)

2011年に大阪で2つ目のジムが設立予定になっています。

漢方薬・抑肝散(よくかんさん)いよる認知症治療

認知症に効果が認められた漢方薬・抑肝散(よくかんさん)

患者数200万人にのぼる認知症では、物忘れがひどくなる主な症状とともに、妄想や幻覚などの 副次的な症状が問題になります。特に家族らにとっては、後者の症状が介護の際の大きな負担となります。

脳にベータアミロイドと呼ばれるたんぱく質が沈着する「アルツハイマー型認知症」では、物忘れがひど くなる症状がまず表れ、記憶障害の進行に伴い、物を盗まれたという妄想や、イライラ、不眠などの症状が 深刻になっていきます。

一方、認知症の2割を占めるレビー小体型認知症では、物忘れよりも幻視や妄想などが先行することが多 いです。横浜ほうゆう病院(横浜市旭区)院長の小阪憲司さんが、約30年前に発見した病気で、一種のた んぱく質から成るレビー小体が大脳皮質にたくさん現れ、神経細胞が壊れていきます。高齢の発症が多いい ですが、40歳代で発症することもあります。

抑肝散(よくかんさん)はレビー小体型認知症に特に効果が

このような幻視や妄想などを抑える働きが注目されているのが、漢方薬の抑肝散(よくかんさん)。子どものかん夜泣きや疳((か ん)の虫などを抑えるために使われてきた漢方薬です。特に、レビー小体型で顕著な効果が報告されていま す。

レビー小体型の治療では、アルツハイマー型でも使われる薬「塩酸ドネペジル」(商品名:アリセプト)を 服用し、記憶障害の進行を抑えます。それで幻視などが消えることもありますが、消えない場合、レビー小 体型では、手足の震えなどを招く恐れがある抗精神病薬は使えず、幻視などの抑制は困難でした。

レビー小体型の幻視は、人が部屋の隅にいるという形で見えることが多い。放置すると、記憶障害と幻視 が結びついて、騒ぐなどして、症状はより深刻化していきます。はっきりと見えている幻視が理解されない つらさから、患者がうつ的な傾向を強めてしまうこともあります。

小阪さんは「抑肝散(よくかんさん)を早い段階から服用することで、患者の精神的な悩みや介護者の負 担を減らすことができます。」と話しています。

東北大学の調査では、抑肝散(よくかんさん)を4週間服用したレビー小体型の患者さん15人のうち、 12人の幻視が消失しました。進行したアルツハイマー型で起こる妄想や徘徊(はいかい)、暴力などの抑 制にも、抑肝散(よくかんさん)が注目されています。

抑肝散(よくかんさん)の副作用

大きな副作用はないものの、服用中に血中のカリウムが減少することがあります、患者さんによっ ては意識がぼんやりしたり、血圧が上昇したりします。定期的に、血液検査を受けるなどの注意が必要です 。

患者が漢方薬特有のにおいを嫌がる時は、とろみのある食べ物に混ぜたりすると服用しやすくなります。 医師の処方で健康保険が適用されます。

抑肝散(よくかんさん)によって改善が期待される症状

  • せん妄:意識がぼんやりして、注意カや集中カがなくなる。突然興奮して、騒いだり、 物を投げたりすることもあります
  • 徘徊:記憶障害や、自分がいる場所が分からなくなる見当識障害などが重なり、歩き回 ってしまう。
  • 不安、焦燥、抗うつ:自分の気持ちが相手に伝わらず、強い不安を感じたり、イライラ したり、ときには暴力につながることもあります。
  • 妄想:現実には起きていないことを信じて疑わない。財布を置いた場所を忘れて、「財 布を盗まれた」などと騒ぎたすこともあります。
  • 幻覚:本当はいない人が見える「幻視」や、いない人の声が聞こえる「幻聴」などが起 こります。患者さんには本当の人や声と区別がつきません。レビー小体型では、物忘れより先に表れます。

関係医療機関

横浜ほうゆう病院

心的外傷後ストレス障害(PTSD)に有効な「眼球運動による脱感作と 再処理治療」

心的外傷後ストレス障害(PTSD)とは

心的外傷後ストレス障害(PTSD)は、自分や他人が危うく死ぬ、あるいは重傷を負うような出 来事を体験、目撃したことが心の傷となって起こります。悪夢やフラッシュバック、意欲の低下、不眠など が1か月以上続き、社会生活に支障が出るとPTSDと診断されます。

特効薬はなく、抗うつ薬などで症状を軽くしたり、カウンセリングを受けたりして癒えるのを待ちます。 しかし、フラッシュバックの苦痛などに耐えきれず、自殺するケースもあります。

近年、治療法として注目されているのが、1989年に米国で生まれた眼球運動を利用した「眼球運動に よる脱感作と再処理治療」(EMDR)です。欧米では、すでにPTSDの有効な治療と認められ、広く行 われています。

眼球運動による脱感作と再処理治療(EMDR)

医師や臨床心理士らは、患者の心理状態を見極めながら、外傷の原因となった事件や事故を振り返 ってもらいます。交通事故や暴行、地震などの場面を生々しく思い出した患者は、恐怖に身を硬くしたり、 呼吸が速くなったりします。

医師らは、そのタイミングで1秒に2往復程度の速さで腕を左右に振り、患者に指先を目で追ってもらい ます。1セット25~30往復続けます。「どんなイメージが浮かびますか」などと尋ねながら連想を促し 、60~90分の治療中に数セット~数十セット繰り返すと、恐怖が薄らいでいきます。

米国などの複数の報告では、治療を数回受けたPTSD患者の84~90%で症状が治まりました。兵庫 教育大教授(臨床心理士)の市井雅哉さんは「治療開始が遅れると難航しますが、一度きりの恐怖体験なら 数回の治療で克服できることが多いです」と話します。

眼球運動による脱感作と再処理治療の効果

交通事故で重傷を負った男性は、最初、猛スピードで近づく車が浮かんびましたが、眼球運動を繰 り返すうちに速度が遅くなり、小さくなって消えました。猛犬に襲われた女性は、イメージが鎖につながれ た犬に変わり、最後はぬいぐるみになりました。

なぜ効果があるのか、まだ解明されていませんが、市井さんは「脳がレム睡眠時のような状態になるため ではないか」と話します。

眼球が小刻みに動き、夢を見るレム睡眠中は、記憶の整理や取捨選択が行われます。しかし、強い恐怖体 験はすぐに処理できず、頭の片隅に生々しいイメージとして残ってしまいます。

治療は、眼球運動で脳にレム睡眠中と似た活動を起こさせ、記憶の整理を促すと考えられています。訓練 を受けた医師、臨床心理士の名前や勤務先、技術レベルなどは、「日本EMDR学会」のホームページで調 べられます。保険がきかないため、1回1万円前後かかることもあります。

関連ホームページ

日本EMDR学会


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