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骨・骨粗しょう症

骨・骨粗しょう症の最新治療法


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骨粗しょう症の治療薬「塩酸ラロキシフェン」「ビスフォスフォネート製剤」

骨粗しょう症の治療薬「塩酸ラロキシフェン」

塩酸ラロキシフェン(商品名エビスタ)は、骨の量を保つ女性ホルモン(エストロゲン)と同様に働きま す。破壊(骨吸収)と再生(骨形成)を繰り返して維持される骨は、閉経後のエストロゲン低下で破壊が進 みやすいが、塩酸ラロキシフェンによって破壊と再生のバランスが戻り、骨量が維持されます。

エストロゲン製剤でホルモンを補う療法は従来から行われていましたが、服薬期間が長いと乳がんの発症 率を高めてしまいます。最近の米国の研究で、長期使用による心筋梗塞や脳卒中の危険性が分かり、世界的 に使用量が激減しています。

しかし、塩酸ラロキシフェンは骨以外でエストロゲンの働きをせず、がんなどの危険性を高めないとされ ています。約300人が投与を受けた国内の臨床試験では、半年間で骨密度が平均3・3%増え、高い骨折 予防効果も確認されています。

骨粗しょう症の治療薬「ビスフォスフォネート製剤」

塩酸ラロキシフェンより一足先に発売された、ビスフォスフォネート製剤(アレンドロン酸、リセドロン 酸)も使用が広がっています。骨を破壊する細胞の働きを抑える効果が、塩酸ラロキシフェンより強いです 。

ただし、朝の空腹時に服用するため、胃腸が弱いと胃炎などを起こし、使いにくい欠点があります。

塩酸ラロキシフェンとビスフォスフォネート製剤の使い分けは、起床後すぐの服用が困難な場合、食事や 時間に関係なく服用できる塩酸ラロキシフェンが勧められます。すでに骨折があったり、骨量の減少が早い 人は、より即効性のあるビスフォスフォネートが効果的です。

塩酸ラロキシフェンの副作用として、血の塊が血管をふさぐ静脈血栓そく栓症が挙げられています。のぼ せなどの更年期症状が悪化する恐れもあるため、閉経後2年以上たってからの服用が勧められています。

関係医療機関 北海道大学病院

骨粗しょう症の背骨骨折治療「経皮的椎体形成術」

骨粗しょう症の背骨骨折「圧迫骨折」

背骨は、首から腰まで24個の椎体(ついたい)と椎間板がつながったものです。骨粗しょう症で骨がもろ くなると、背骨の椎体が潰れやすくなります。これが「圧迫骨折」で、背骨が曲がり、4割は痛みをともない ます。

従来の治療は、鎮痛剤や骨粗しょう症の進行を抑える薬を服用したり、患部を固定するコルセットを着用 したりといった方法ですが、慢性の痛みが残りました。

骨粗しょう症の背骨骨折治療「経皮的椎体形成術」

「経皮的椎体形成術」は、骨折した椎体の中に、特殊な液体とバリウムを混ぜたセメントを注入して、圧 迫骨折による痛みを緩和する手術です。痛みの緩和が目的ですので、圧迫骨折があっても、痛みがない場所 は治療しないことが多いです。

聖路加病院では、2年間で骨粗しょう症による圧迫骨折や、がん骨移転で痛みのある患者約50名に実施し ました。手術翌日の午後には歩行ができ、約8割の方に明らかな痛みの緩和が見られました。治療効果が高い のは、骨折後1ヶ月以内です。

骨セメントが椎体の外に漏れてしまいますと、神経障害や肺塞栓症などを起こす危険がありますので、一 度にたくさんの椎体に手術は行いません。

関係医療機関 聖路加国際病院

漏斗胸(ろうときょう)治療の「NUSS(ナス)法」

漏斗胸(ろうときょう)

漏斗胸は、子どもの胸の一部がへこんでくる病気で、胸の中央にある胸骨や、肋(ろっ)骨を支える肋軟 骨が内側に曲がっています。原因は不明ですが、成長と共に、へこみが大きくなる場合が多いです。約10 00人に1人にみられる病気です。

普通、痛みなどの自覚症状はありませんが、呼吸や心拍の機能が低く、かぜをひきやすい、疲れやすいな どの影響があります。へこみが大きいと心臓や肺を圧迫し、重い場合は心電図に異常が出ることもあります 。

さらに「水着になりたくない」など、外見に深刻な悩みを持つ子どもが多いです。

従来は、へこみを直すため、胸の骨を切り出して持ち上げたり、ひっくり返したりする手術が行われてき ましたが、手術が長時間で体への負担が大きく、胸に大きな傷跡が残ることなどが難点でした。

新しく開発された治療法の「NUSS(ナス)法」は、1998年に米国の小児外科医が報告した新しい手術 で、開発者の名にちなんだ方法です。

「NUSS(ナス)法」の手術

胸の矯正に使うのは、ステンレスやチタン製の平たい金属の板です。板はあらかじめ、患者の胸の形に合 わせて、U字形に湾曲させておきます。

手術は、わきの下を2か所切開し、心臓と肺が納まる空間の「胸腔(きょうくう)」に、まず大きな鉗子 (かんし)と内視鏡を入れます。鉗子を入れるための傷は2―3センチです。医師は、内視鏡で胸腔の中を 見ながら、胸の1番へこんだ部分の骨の下に鉗子を通し、反対側のわきの下まで貫通させます。

突き出た鉗子の先と金属板をひもで結び、鉗子を引き抜くと、胸の下にU字形の金属板が納まります。こ の板を、胸腔の中で180度ぐるりと回転させると、胸骨と肋軟骨が持ち上がる仕組みです。金属板を肋骨 に固定し、板の先端を皮膚の下に埋め込めば終了で、手術時間は30―40分ほどです。

手術後は、持ち上げた胸の痛みが大きいため、背骨に5日ほど、麻酔薬を入れます。通常は7―10日で 退院できます。患者によっては板を2本使いますが、手術の傷跡は腕の下に隠れ、目立ちにくいです。

2―3年後、今度は金属板を引き抜く手術を行います。抜いた後の再発は、ほとんどないとされています 。

手術の時期は小学生が適しており、中学生以上では、手術しても変形が残る場合があります。心臓の近く に鉗子や金属を通すため、手術には熟練が必要で、手術が二度必要になるなどの欠点もありますが、国内で も普及してきています。

手術は、大きな病院の小児外科医に相談するといいです。保険が利くほか、18歳未満なら、障害のある 子どもの医療費を国と都道府県が助成する「育成医療」の対象となります。

関係医療機関 国立病院機構岩国医療センター

複雑骨折の脚延長術「イリザロフ法」

従来の骨折治療

骨が折れたら、ギプスやネジ、ワイヤなどで外側あるいは内側から、患部をくっつくように固定するのが通常のやり方です。骨が欠損した場合は、別の骨を移植します。イリザロフ法は、こうした従来の常識とはまったく違う発想から生まれた治療です。

骨を再生させる「イリザロフ法」

患部を固定しつつも少しずつ引っ張ります。すると骨が徐々に再生されて伸び、血管や筋肉、神経など周りの軟部組織も形成されます。開発は意外に古く、ロシア・西シベリアのG・イリザロフ医師(故人)が1951年から治療に使い始めました。当初は効果が疑問視され、長らく埋もれていましたが、イリザロフ医師がスポーツ選手の治療などで積み重ねた実績が、欧米の整形外科医らに伝わり、80年代以降、世界的に広まりました。

1990年からイリザロフ法の専門外来を開設している帝京大病院の整形外科教授、松下隆さんは「これまで一番骨が伸びた例は33センチ。軟部組織の再生には限界があるが、骨だけなら無制限に伸ばせるのではないか」と話しています。

イリザロフ法の治療

対象となるのは、外傷や骨のがん、骨髄炎などで骨を切除した患者です。伸ばしたい部位の骨を切断し、細いワイヤをかけて「創外固定器」という、金属製リングをいくつも連緒した外枠につなぐます。伸ばしたい方向に力を加えて1日1ミリほどのペースで引っ張り続けると、切断面に骨の組織が徐々に形成されます。エックス線写真で、骨の形成スピードを見ながら固定器を調節します。

最適な長さになったら、つなぎたい骨とドッキングさせる手術を行います。骨が固まるまで、伸ばした期間と同じくらいの日数をかけて固定します。

固定器の取り付け方次第では、複雑な変形を矯正することも可能です。高齢者でも時間はかかりますが再生できます。先天性小人症(四肢短縮型)患者の手足を伸ばす治療にも応用しています。ただ、がんの放射線治療を受けた患者や骨の代謝障害の場合は、この治療には不向きで再生しにくいです。

イリザロフ法のメカニズム

骨折が治る時には、骨のもとになる細胞や骨形成を促進する物質が血流に乗って患部に集まり、柔らかい「仮骨」という「骨の前段階」を作ります。イリザロフ法は、折れた部分を少しずつ引き離すことで仮骨をどんどん作らせ、伸ばしていくとみられています。

金沢大助教授の土屋弘行さん(整形外科)は「小さな骨折をわざと繰り返し、骨を作る反応を持続させるようなもの」と説明しています。骨が伸びるメカニズムは未解明の部分が多く、国内でも専門医が1995年から「日本イリザロフ研究会」を作り、研究を進めています。

治療費は入院期問などによって異なりますが、固定器の装着手術が約30万円になります。「脚長調整術」として、健康保険が適用されます。

関係医療機関

帝京大病院整形外科

金沢大病院整形外科

アキレス腱断裂の新手術法

アキレス腱の断裂

アキレス腱は、ふくらはぎの筋肉である下腿三頭筋と、かかとの骨をつなぎます。人体で最も太い腱ですが、体重がかかり、最も断裂しやすい部分でもあります。

断裂は20歳代後半から40歳代に多く、普段スポーツをしない人が十分に準備運動をしないと、起きやすいです。「父親が子供の運動会でリレーに出た時に断裂するのが典型的」と、北里大整形外科助教授の占部(うらべ)憲さんは話します。

治療には、手術で腱を縫う方法と、手術せずにそのままギプスで固定する方法があります。

手術にはさらに

1.皮膚を切開し、腱を元通りに縫い合わせる

2.切開せず針だけを通して縫う

の2種類があります。腱は断裂しても自然に修復するため、固定する方法も手術も成功率は高いです。

ただ、固定する方法は、再断裂の危険が比較的高くなります。針だけを通す縫合は小さな傷ですみますが、腱と並行に走る神経を傷つける恐れがあります。

アキレス腱断裂の新手術法

占部さんは九州大在籍時に、佐賀整肢学園こども発達医療センター院長の窪田秀明さんとともに、皮膚切開で縫合する新たな手法を考案しました。従来は2本の糸を通して縫い合わせていましたが、6本の糸を通すことで、より強固に縫合する方法です。縫合後には、補助的に腱の表層も縫い合わせ、強度を高めます。手術は下半身麻酔で行い、6センチ程度切開し、約一時間かかります。

一般に、固定する方法だと1か月半程度、縫合する方法でも1-1か月半ほど、ギプスで足首をしっかり固定します。そのため、筋力が落ちるほか関節が固くなり、リハビリに時間がかかります。

新しい手法では、断裂した腱が糸でしっかりつながれているため、ギプスをせず、手術翌日からベッドで寝た状態で足首を動かすリハビリを始めることができます。手術3-7日後から体重の三分の一を足首にかける運動を始めます。不自由なギプスから解放されるうえ、早期のリハビリで、筋力低下や関節が固くなることを防ぐことができます。

1-2週後から装具をつけて歩行訓練し、6週後までに全体重をかけて歩けるようになり、退院できます。さらに3か月で軽いランニング、6か月までにはスポーツも可能になります。

他の治療法と同様に保険適用されます。ただし、従来の治療と比べ回復までの期間が短い人も、大差ない人もいます。

日本医大教授、伊藤博元さんは「手術も、手術しないで固定する方法も、どちらが優れているとは言えない」と説明します。一般に、スポーツ選手など筋力を落とさず早期復帰を目指す場合は縫合手術することが多いです。生活スタイルに合わせて治療を選ぶことが、重要になります。

関連医療機関 北里大整形外科

人工骨「水酸化アパタイト」による骨の「再建」

骨の復元「再建」

事故などで頭を打つと、脳の血管が切れることがあります。すると頭がい骨と脳の間にたまった血液で脳 が圧迫され、深刻な障害を起こす危険があります。救急医療では、頭がい骨の一部を切り取って圧力を逃が す処置が取られますが、頭が変形してしまうため、けがが治った後、骨の復元を試みる「再建」を希望する 患者は少なくありません。

頭がい骨の欠損をふさぐ、従来の方法には

1.特殊な樹脂を使う。

2.腰骨や肋こつ骨など患者自身の骨を移植する。

などがあります。

しかし樹脂は人体にとって異物なので、炎症が起きやすいです。自分の骨は異物ではありませんが、移植 してうまく付く保証はありません。健康な骨を切り取るので、患者の体に負担も大きく、欠損部分が広いと 、そもそも不可能です。

人工骨「水酸化アパタイト」

樹脂や骨に代わり、注目されているのがセラミック系素材の「水酸化アパタイト」です。歯の成分に似て おり、生体になじみすく、強度もあり形も自由自在に作れます。ただ、ダイヤモンドを用いた特殊な機械で ないと削れないほど硬く、手術中に簡単に加工できません。

その難点を克服したのが、CTによる診断と、コンピューター制御の加工技術の組み合わせです。慶応大看 護医療学部助教授の小林正弘さんらが、1990年代初めに開発した。「患者に合わせた精密な形状の人工 骨を事前に作り、手術中に加工する煩雑さを回避できる」と説明します。

頭部を1.5ミリ間隔で輸切りに撮影した約100枚のCT画像で、頭骨の詳細な「設計図」を作ります。 次に欠損部分を埋める人工骨のデータを計算し、コンピューター制御の工作機械に入力、水酸化アパタイト の塊を切削すれば、オーダーメードの人工骨ができあがります。「誤差1ミリ以内で、頭がい骨の欠損部に ピタリとはまる人工骨を作ることができる」と小林さんは言います。

患者の骨の移植では4-8時間かかる手術も、半分以下に短縮できます。

手術時間の短縮に役立つもう一つの「武器」は、人工骨と同時に作る頭骨の全体模型です。人工骨の治療 も、この模型製作技術から生まれました。

光を当てると固まる樹脂やナイロンの粉を使い、CTで得た頭骨の輪切りデータに従って、工業用の装置で 立体地図を作るように成型します。

実際には見えない頭骨の裏側までほぼ完全に再現できるので、手術計画が立てやすいです。細かい手術に 特に有効で、あごの骨の整形の際、歯のかみ合わせを考えた、骨の切り方などを決めるのに、模型を使う病 院もあるといいます。

人工骨による形成術には保険が適用されます。ただ、模型を作成する部分は高度先進医療で自己負担とな り、患者の負担額は人工骨の大きさなどによっても異なりますが計数10万円となります。小林さんは「利 点の大きい技術なので、すべて保険適用にしてほしい」と期待しています。

人工骨の開発

生体になじみやすい人工骨の研究は、近年、急速に進んでおり、ここで紹介した「水酸化アパタイト」を はじめ、様々な素材が開発されています。

例えば、大阪大や早稲田大の研究チームは、直径0.5ミリほどのレンコン状の穴が多数開いたチタンや ステンレスを使い、性能の良い人工の骨や歯根を作る実験に成功しました。穴に新しい骨や毛細血管などの 組織が入り込んで、元の骨と一体化します。

財団法人「ファインセラミックスセンター」(JFCC、名古屋市と中部大学の共同研究チーム)は、高密度ポ リエチレンの中に微小な二酸化チタンをちりばめた人工骨を開発。本物の骨と同様の弾力性があり、椎間板 ヘルニアの治療などに使えそうです。

関係医療機関 慶応大病院形成外科

「硬膜外腔内視鏡」(エピドラスコピー)による腰痛治療

腰痛の原因と治療法

腰痛は、年齢と共に、背骨や、背骨のクッションである椎間板が変形し、神経の束である脊髄が圧迫され るのが、主な原因とされています。

腰痛治療は一般に、痛み止めや抗炎症薬などの薬による治療や、痛みが伝わる腰の神経に麻酔をかける「 神経ブロック」が行われます。これで2-3か月しても痛みが改善しない場合、変形した骨や椎問板を除く 手術も行われます。しかし、3か月以上続く慢性腰痛は、部位が、はっきりしないことが多いいです。

実は、痛みや炎症が長く続いた腰痛は、腰の神経の周辺組織が癒着したり、傷跡が引きつるように固く変 性したりしています。このような状態は、エックス線など外部からの画像診断だけでは、わかりにくいです 。

「硬膜外腔内視鏡」(エピドラスコピー)による腰痛治療

こうした腰痛の診断に開発されたのが、硬膜外腔(がいくう)内視鏡です。背骨と脊髄の間の「硬膜外腔 」と呼ばれる狭いすき間を通るよう、先端の直径は1ミリ以下と、極細になっています。

この内視鏡で硬膜外腔の癒着をはがしますと、腰痛が治ったり、軽くなる人がいることがわかってきまし た。1995年に治療を始めた米国では、これまで1万例以上、国内では大学病院など約30施設で400 例以上行われています。

自治医大麻酔科講師の五十嵐孝さんは「神経ブロックが効かず、従来の手術をしたくない人の新しい治療 として期待されている」と話します。

治療は、麻酔をした患者の腰に約1センチの傷をつけて内視鏡を挿入します。医師がモニターで硬膜外腔 の癒着を確認すると、内視鏡の先端から生理食塩水を出し、水圧と内視鏡の動きで丁寧にはがします。最後 に神経ブロックと同じ麻酔薬と抗炎症薬を患部に注入します。

この治療法が有効な理由は、さまざま考えられています。癒着や神経の圧迫を取り除くほか、水で痛みを 起こす物質を洗い流す効果もあります。癒着をはがすことで、神経ブロック注射では患部に届かなかった薬 が浸透することも、関係しているようです。

「硬膜外腔内視鏡」(エピドラスコピー)による効果

自治医大では、薬などの保存療法や神経ブロックが効かない腰痛患者200人以上の治療を行っています 。手術直後はほぼ全例で痛みが軽減し、特に椎問板ヘルニアで効果が高いです。

東大病院での2003年12月までの3年半の集計では、背骨に異常のあるのべ78人に対する治療で、 49人(62%)に痛みが和らぐ効果がありました。ヘルニアで14人中10人、背骨の神経の通り道が狭く なる「脊柱管狭さく症」で24人中15人に効果があった。

しかし完治しない場合もあり、数日で痛みが戻ることもあります。坐骨神経痛などで起きる足のしびれや ヘルニア手術後の再発例は、やや効果が低いです。癒着以外の原因で起きる痛みも考えられるためです。た だ、一度癒着をはがすと、再発しても神経ブロックがよく効くようになる人もいます。

手術時間は1時間ほど。傷跡が小さく、患者の身体的な負担も軽く、翌日に退院することも可能です。保 険は適用されず、自治医大での手術費用は約20万円です。

腰痛治療の現状

腰痛の原因には、椎間板ヘルニアや脊柱管狭さく症のほか、分離症、すべり症、変形性脊椎症、骨粗しょ う症などさまざまな原因があります。

だが、エックス線で明らかにヘルニアや骨折があるのに、痛みをまったく感じない人もいます。心理的な ストレスから痛みを感じる心因性腰痛もあり、腰痛のメカニズムは完全に解明されていません。誰もが10 0%良くなる治療はないのが現状です。

加齢に伴う慢性腰痛は、痛みを少なくすることはできても、若いころのように痛みや重さを感じない腰に 戻すことは難しいです。焦らず気長に、自分にあった治療を見つけることが大切です。

関係医療機関 自治医大病院 東大病院麻酔科・痛みセンター

骨肉腫の「抗がん剤とカフエインの併用治療」

骨肉腫の治療法

骨肉腫は、思春期の子供に多い病気で、大腿骨や上腕骨にできやすいです。腫瘍によって内部が破壊され た骨は、切除しなくてはなりません。

1970年代までの治療では、腫瘍ができた手足の切断が主流で、5年生存率も10-20%と低かった です。1980年代以降は、抗がん剤で腫瘍を小さくしてから手術することで、手足の切断処置を回避する ことを目指しました。こうした手足の温存手術は骨肉腫手術の9割を超え、肺、肝臓などへの転移がない場 合、5年生存率も60%程度に上昇しました。

しかし抗がん剤だけで、腫瘍を死滅させることは難しいです。

そこで、抗がん剤の効き目を強くするため、金沢大整形外科助教授の土屋弘行(つちやひろゆき)さんは 、意外な物質に着目しました。それは、コーヒーなどに含まれるカフェインです。「カフェインは紫外線や 放射線による細胞障害を進行させる」との報告を読んだことがヒントになりました。

抗がん剤とカフエインの併用治療

抗がん剤でDNAを傷つけられたがん細胞は、次の細胞分裂までの周期を延ばすことでDNAを修復し、生き延 びようとします。ところが、そこにカフェインを投与すると、がん細胞は修復までの十分な時間を確保でき ず傷ついたまま分裂して、死ぬことを動物実験などで確認しました。

そのうえで、土屋さんらは1989年、骨肉腫の患者に抗がん剤とカフェインの併用療法を開始しました 。血液中に抗がん剤2種類(シスプラチンとアドリアマイシン)を4時間注入した後、カフェインを3日間 、点滴注射します。患者の体力を見ながら、この併用治療を手術前に5回、手術後に6回繰り返すのが標準 的な方法です。

カフェインの量は1日2-3グラム。コーヒー30杯分程度と量は多いですが、不眠や吐き気などの副作 用は血中濃度の調整や鎮静剤で抑えます。

これまで60人に併用療法を行い、他臓器に転移がない36人中30人は、手術前に腫瘍が消えました。 従来の成績と単純には比較できないものの、5年生存率は93%と高いです。一方、転移が起きた場合の生 存率は従来同様に低く、今後の課題となっています。

併用療法は、切除範囲を従来より小さくできます。関節や周りの筋肉、神経などを残し、切除した部分に 別の骨を移植して再建することで、運動機能回復も容易になった。

土屋さんは「手足の機能が回復する意義は大きいです。ただし、カフェインはあくまで抗がん剤の補助剤 で、コーヒーを多く飲んでも効果は期待できません」と説明します。

同大の併用療法は2003年から、検査など治療本体以外の部分に保険がきく高度先進医療に指定されま した。カフェインは安く、患者の自己負担は3日分で9500円程度です。同大以外にも骨肉腫などに併用 療法は広まりつつあります。米国では、悪性黒色腫、脳腫瘍、すい臓がんの治療などにも応用されています 。

カフェインの効果

コーヒーやお茶に含まれる成分として、だれでも知っているカフェインの意外な効果に驚かされます。安 価で、副作用をあまり心配する必要がないのが長所です。がん細胞の修復を阻害するという機能からすれば 、どんながんに対しても、抗がん剤の効果を増強する働きがカフェインにはあるかもしれません。

日本では、まだ骨肉腫などの治療に限定されていますが、さらに広がる可能性もあります。ただし、コー ヒーや茶の大量飲用で、同じ効果が得られるわけではありません。

関係医療機関 金沢大整形外科

前十字靱帯断裂の「靱帯再建手術」と「保存的修復法」

前十字靱帯の断裂

スポーツで膝を傷めることはよくありますが、中でも多いのが、膝をねじり、骨と骨をつなぐ太い靱帯( じんたい)を切ってしまう「前十字靱帯(ぜんじゅうじけん)断裂」です。そんな場合、別の部位から腱( けん)を取って靱帯の代わりに移植する「靱帯再建手術」をすれば、再び本格的なスポーツをすることも可 能になります。一方、レクリエーション程度に軽いスポーツを楽しむ人で手術を望まない場合には、早期の リハビリで靱帯の修復を促す「保存的修復法」も試みられています。

「靱帯再建手術」

膝関節は、太ももの大腿骨(だいたいこつ)と、すねの脛骨(けいこつ)が四本の靱帯で結ばれている。 中でも中心的な役割をしているのが前十字靱帯で、これが切れてしまうと急に止まったりジヤンプしたりと いった激しい動作ができなくなります。

元通りに運動できるようにするには、「靱帯再建手術」を行うのが一般的です。

手術は、皮膚を切開し、関節鏡と呼ばれる小型カメラを入れ、膝の内部を見ながら行います。大腿骨と脛 骨に開けた穴に、膝の裏などにある腱を通して固定し、靱帯の代わりにします。数センチの傷口で済み、体 に負担の少ない手術です。その後、半年から1,2年間のリハビリを行います。この手術で、競技に復帰し たスポーツ選手も少なくありません。

「保存的修復法」

一方、「保存的修復法」は、手術はしないで運動療法によって靱帯を修復させる方法です。この治療をい ち早く実施した、九州労災病院(北九州市)スポーツ整形外科部長の井原秀俊(いはらひでとし)さんは「切 れた靱帯は元に戻らないとされてきましたが、早期に適切な運動をすると、再びつながることが経験的にわ かりました」と語します。

膝が不自然な曲がり方をしないように、太ももからすねにかけて、装具でしっかり固定したうえ、屈伸運 動や自転車こぎなどを行います。入浴時を除き、装具は寝ている間も着ける必要があり、3か月後に外して 治療効果を判定します。

井原さんはこの10年余で約200人にこの治療を行い、成功率は7割でした。「膝を適切に動かすこと で、靱帯が本来の形を取り戻すのではないか」と説明しています。切れた靱帯は放置しておくと縮むため、 損傷後2週間以内に始めることが重要だといいます。

「靱帯再建手術」か「保存的修復法」の選択

「保存的修復法」には限界があり3割の人には効果がなく、再建を目指すなら改めて手術が必要となりま す。

また、修復した靱帯は、傷が治った後の「はん痕」のようなものと考えられており、元の靱帯と違って強 度が劣り、1-2割の人で再断裂が起きるといいます。善衆会病院群馬スポーツ医学研究所(前橋市)所長の 木村雅史(きむらまさし)さんは、スポーツ選手など本格的に運動する人(患者さんの5-6割)には手術を 勧め、「歩行など日常生活で困らなければよい」という場合(患者さんの3割)は、手術せずにリハビリだけ で様子を見ます。

保存的修復法を行うのは、残りの1-2割の患者さんです。「休日にテニスをするといったレクリエーシ ョン程度の運動を楽しむ人や、15歳以下の成長期など手術を避けたい場合の選択肢の一つ」と木村さんは 話します。

装具を含めて、保険がききます。治療の対象や入院期問などは医療機関によって異なります。通院だけで 治療する病院がある一方、1か月半と入院期間が長い病院もありますので、事前に問い合わせてください。

靱帯損傷の頻度や原因

木村雅史さんのまとめによりますと、外傷性の膝関節障害では靱帯損傷(90%)がほとんどで、うち前十 字靱帯が全体の59%を占めます。その他の障害では、膝蓋骨(しつがいこつ)の脱臼(5%)、半月板単独 損傷(2%)と続きます。

前十字靱帯損傷の原因を見ると、スポーツ外傷(73%)、交通事故(19%)、その他(8%)で、スポーツ の中ではスキーが半分(34%)近くを占め、サッカー、バスケット、バレーボールと続きます。男女比は4 対6と女性の方がやや多いいです。女性の場合は特に、他人とぶつかったわけではなく、単独で転んだケー スが多いのも特徴です。

また、靱帯損傷の手術は、膝だけでなく、ひじのけがでも行われます。

関連医療機関

九州労災病院(北九州市)スポー ツ整形外科

善衆会病院群馬スポーツ医学研究所

骨への転移がん進行を抑制する「ビスフォスフォネート製剤」

骨への転移がん

骨に転移したがんは、骨をもろくし、痛みや、骨折を引き起こします。脊椎(せきつい)に転移したがん が、脊髄の神経を圧迫し、まひが起こることもあります。

厚生労働省研究班(班長・荒木信人大阪府立成人病センター整形外科部長)の推計では、骨転移に苦しむ 患者さんは、年間6~9万人います。乳がんや肺がん、前立腺がんが骨に転移しやすいです。

治療は、薬や手術、放射線を組み合わせます。肺がんなどは、抗がん剤で全身のがんの増殖を抑えるのが 、標準的な治療です。乳がんや前立腺がんは、ホルモン療法も行います。

痛みに対しては、モルヒネなどの鎮痛薬を使ったり、放射線治療が行われたりします。1回から数回に分 け患部を照射、7、8割の患者で痛みが改善されるといいます。また、まひや骨折の予防も放射線治療の役 割です。

ビスフォスフォネート製剤の「ゾレドロネート(商品名ゾメタ)」

これらに最近、加わったのが、骨のがんの進行を抑制する点滴薬、ビスフォスフォネート製剤です。抗が ん剤やホルモン剤のようにがんに働きかけるのではなく、がんが骨で増殖しにくい環境を作ります。飲み薬 は骨粗しょう症治療薬として使われています。

2004年に乳がんの骨転移治療薬、2006年4月には、血液がん以外のすべてのがんの骨転移などに、ビスフ ォスフォネート製剤の「ゾレドロネート(商品名ゾメタ)」が承認されました。ゾレドロネートの点滴は、 15分ですみます。

正常な骨は、古い骨を溶かして壊す破骨(はこつ)細胞と、骨を作る骨芽(こつが)細胞がバランス良く 働き、新陳代謝を繰り返します。しかし、骨に転移したがんは、そのバランスを崩します。

肺がんや腎臓がんからの転移は、破骨細胞の働きが活性化され、骨が溶け出しスカスカになります。一方 、前立腺がんは、骨芽細胞の働きが高まり、異常に骨が作られ、折れやすくなります。乳がんからの転移は 両タイプが見られる。

ビスフォスフォネート製剤は、破骨細胞の働きを抑制して骨が溶け出すのを止め、骨芽細胞の働きも正常 に戻していくとされます。

「ゾレドロネート(商品名ゾメタ)」の効果

国内の骨転移がある乳がん患者約230人を対象にした比較試験では、ゾメタを1年間投与したグループ でその間、痛みがあった患者はほぼ全員で痛みが軽減しました。また、3割が骨折やマヒなど合併症を起こ しましたが、投与しなかったグループは5割で発生しました。薬によっては、2割の患者が重い合併症を免 れたことになります。

原因不明の副作用として、1万人に7人の比率で、あごの骨の壊死(えし)が報告されています。抜歯後 に起こりやすく、その時期は使用を控えてください。

癌研有明病院(東京)癌化学療法センター臨床部副部長の高橋俊二さんは、「痛みや骨折は、著しく生活 を妨げます。比較的安全に使える薬なので、症状が出る前から薬を使うことで、1日でも長く普通の生活を 過ごせる可能性が高まります」と話しています。

関連医療機関

癌研有明病院(東京)癌化学療法センタ ー

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