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心臓

心臓の最新治療法


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心臓・狭心症のステント挿入治療

狭心症

狭心症は、冠動脈にコレステロールなどがたまって狭くなり、心筋に十分な血液が送れなくなる病気です 。血栓(血液の塊)ができて冠動脈が詰まり、心筋の一部が死んでしまう場合は心筋梗塞(こうそく)です 。これらを合わせて虚血性心疾患と言い、患者数は国内でも推定100万人と増え、年に7万人以上が亡く なっています。

狭心症のステント挿入治療

治療には、詰まった部分を迂回(うかい)する血管を作るバイパス手術や、血栓を溶かす薬物療法などが あります。中でも広く行われているのが、足の付け根の静脈などから細い管(カテーテル)を入れ、ステン トを使って冠動脈を広げる治療です。体を切らないので社会復帰が早く、効果も高いです。

一方で問題もあり、ステントの金属が血管を傷つけるなどして炎症を起こし、血管の内膜細胞が増殖して 血管が狭くなる「再狭窄」(さいきょうさく)が、患者の20~30%で半年以内に起きることです。この ため、心筋梗塞を繰り返すこともあります。

そこで、再狭窄を防ぐ「薬剤溶出性ステント」が米国で開発され、日本でも保険適用が認められて、使え るようになりました。炎症を抑える働きのある免疫抑制剤シロリムスがステントに塗ってあり、それが約3 か月にわたってゆっくり血管内壁に溶け出し、内膜細胞の増殖を抑えます。

臨床試験では、半年後の再狭窄率は、従来のステントに比べ4分の1以下の5%と激減しました。新型ス テントの登場により、米国ではバイパス手術件数が減るなど、心筋梗塞治療が大きく変わりました。

ただし欠点として血管内に異物であるステントを入れると、血栓ができやすくなり、心筋梗塞を起こすこ とがあります。

厚生労働省は、新型ステントを使う場合、血栓をできにくくする抗血小板薬、塩酸チクロピジンを、従来 のステントの3倍の期間にあたる治療後3か月間、毎日服用するよう求めています。

しかしこの薬には重い肝臓障害や、白血球、血小板が減る副作用があり、1999年から2年間で34人 が死亡しています。厚労省は原則として2週間ごとに血液検査を行い、副作用をチェックすることも求めて います。

抗血小板薬の使い方を含め、ステント治療に詳しい循環器内科医が行わないと危険な場合もあると言われ ています。帝京大循環器科では、治療の1か月前からこの薬を使い、副作用の有無を調べるなど独自の体制 を取っています。

しかし最近のステント挿入治療では、比較的安全な抗血小板薬クロピドグレルを使用しています。

関係医療機関 帝京大医学部付属病院循 環器科

改良型バチスタ手術の「左心室縮小形成術」と「中隔前壁心室除外術」( SAVE手術)

拡張型心筋症

拡張型心筋症は原因不明で、重症だと心臓移植以外では助からないとされています。四つある心臓の部屋 のうち、全身に血液を送る左心室が、心筋の働きが弱った分、ポンプ機能を維持しようと膨らみます。

1990年代初めに始まった治療が、拡張した左心室の心筋の一部を切り取る「バチスタ手術」です。ブ ラジルのR・バチスタ医師が考案しました。左心室の容積を減らすことで心臓の収縮力を増し、ポンプ機能 を回復させます。

日本では1996年に初めて行われ、1998年に保険適用されました。しかし、手術の成績が思わしく なく、件数は伸び悩みました。

改良型バチスタ手術の「左心室縮小形成術」

バチスタ手術では、左心室の背中側の心筋を画一的に切除します。しかし、肥大した心筋は一様に悪くな るのではなく、重症の患者でも十分な機能を持つ部分が残っていることがわかってきました。

そこで考えられたのが、大きく広がって働きの鈍った心臓の左心室を、心筋を切除せずに小さくする改良 型バチスタ手術「左心室縮小形成術」です。

心臓血管研究所付属病院心臓外科で指導する医師、須磨久善さんは、国内で初めてこの手術を実施した第 一人者です。手術中に、超音波装置で、心筋の障害のある部分と、機能を維持した部分を見分け、可能な限 り良い部分を残す改良型のバチスタ手術を考案しました。

「中隔前壁心室除外術」(SAVE)

心筋のうち、左右の心室を仕切る心室中隔の付近が悪くなった場合、中隔は切除できません。そこで須磨 さんは、特殊な合成繊維でできた布(パッチ)で間仕切りを作って心室の空間を狭め、中隔を切除せずに左 心室を3分の2程度に縮小させる「中隔前壁心室除外術」別名「SAVE(セイブ)手術」も開発しました 。

パッチの間仕切りと中隔の間には血液が入り込み、自然にふさがれます。この手術も保険が適用されます 。

傷んだ心筋の部位により、改良型バチスタ手術とSAVE手術の2通りの左心室縮小形成術を使い分ける 手法で、治療成績は向上しました。

須磨さんが院長だった葉山ハートセンター(神奈川県葉山町)などで実施した96例の場合、左心室の裏 側を一様に切除した従来のバチスタでは、手術による死亡率は42・8%。一方、心筋の具合を見て、改良 型バチスタとSAVEを選択した場合の死亡率は14・6%と、約3分の1に減りました。

須磨さんは「良い心筋を残すことで、切除する部分を小さくできます。内科的治療を組み合わせ、長期の 生存率の改善も期待しています」と語っています。

「両心室ぺーシング」

同研究所付属病院の内科的治療は、左心室形成術の後、新しいペースメーカー「両心室ぺーシング」の機 器を埋め込みます。通常のペースメーカーは右心室に電気刺激を与えますが、両心室ぺーシングは左右の心 室をほぼ同時に刺激し、スムーズに収縮させます。

心室形成術を受けるには、

  1. 薬による治療で心不全が改善しない。
  2. 左心室の内径が8センチ以上に拡張している。
  3. 左心房と左心室の間の僧帽弁に逆流がある。

などが条件になります。

心臓移植が普及しない日本では、「左心室縮小形成術」は拡張型心筋症などで悩む患者の頼みの綱になり ます。その生活の質向上には、手術の成否と同じくらい、手術後の管理も重要となります。今後、両心室ペ ースメーカーの装着など内科的療法が増加すると見られています。

関係医療機関 

心臓血管研究所付属病院

葉山ハートセンター

大動脈瘤の新しい血管内治療「ステントグラフト内挿術」

大動脈瘤(だいどうみゃくりゅう)

大動脈瘤は、動脈硬化などによって大動脈の一部がもろくなり、瘤状(こぷじょう)にふくれる病気です 。大きく、胸部大動脈瘤と腹部大動脈瘤に分類されます。自覚症状がないことがほとんどですが、破裂する と大量の血液を一気に失い、高い確率で死に至るため「サイレントキラー」とも呼ばれています。

破裂リスクは瘤の大きさや拡大速度、形状などによって診断されます。胸部で6センチ以上、腹部で5. 5センチ以上の場合、あるいは1年間で0.5センチ以上拡大している場合は、手術を検討します。また、 片側に瘤が飛び出ている「のう状瘤」と呼ばれるタイプは破裂リスクが高いです。

血圧を下げる等の内科的治療はほとんど効果なく、外科治療が中心となります。外科治療には、従来から 行われているお腹を開いて行う「人工血管置換術」か、新しい血管内治療である「ステントグラフト手術」 があります。

従来の治療法の「人工血管置換術」は、お腹を30センチ程切開して大動脈の血流を一時的に遮断して、 瘤の部分を人工血管で置き換える手術です。治療法としてほぼ確立しており、死亡率は1-3%台と手術成 績も安定しています。

しかし、開腹するために体への負担が大きいことや、全身麻酔をかけなければならないこと、また将来の 腸閉塞や性機能障害などの合併症の危険性もあります。心臓や肺に過度の負担がかかるため、高齢の方や合 併症の多い方は手術リスクが非常に高くなります。また、全身麻酔をかけられない方は、治療が受けられな いというデメリットがあります。

新しい血管内治療の「ステントグラフト内挿術」

新しい血管内治療のステントグラフト内挿術は、「ステントグラフト」と呼ばれるステント付きの人工血 管を、血管内に挿入して大動脈を内側から補強する方法で、お腹や胸を切る必要もなく、数日で退院が可能 です。

ステントグラフト内挿術では、足の動脈(大腿動脈)から小さく折りたたんだステント付きの人工血管を 大動脈の中に挿入し、レントゲン透視装置下で瘤の位置に留置固定する手術です。

足の付け根を数ミリから数センチ切開するだけで行えるため、全身麻酔をかけられないような合併症の多 い患者さんにも、局所麻酔あるいは背中の麻酔(硬膜外麻酔や脊椎麻酔)下で行えます。

痛みが少なく入院期間が短くてすむのが特徴です。「人工血管置換術」では約2-3週間の入院期間を要 していましたが、「ステントグラフト手術」では3-4日で退院が可能です。また、開腹しないので、手術 リスクの高い高齢の方にとっては特に有用です。

ステントグラフト内挿術の特長は、なんといってもからだの負担が小さいことです。局所麻酔でも治療す ることができ、手術当日から食事や歩行が可能です。また、人工血管置換術は約3割に重い合併症が起こる のに対し、ステントグラフト内挿術は約5%といいます。なにより、心臓や肺の働きが弱い、高齢である、 といった患者さんにも、治療の可能性を広げました。

東京慈恵医大病院の血管外科教授、大木隆生医師は「瘤の形によってはできないこともあるなど、ステン トグラフトにも課題があります。しかし、手術できずに破裂の不安を抱えていた多くの患者さんが、この治 療で再び安心して生活できるようになりました」と話しています。

大木医師はステントグラフトを開発するため1995年に単身渡米しました。アルバート・アインシュタ イン医科大学で12年間勤務し教授となった後、06年、母校に請われて帰国しました。これまで日米両国 で、1500例以上のステントグラフト治療を実施しています。同院では過去3年問に500例以上の腹部 大動脈瘤ステントグラフト内挿術を施術しましたが、死亡者はゼロです。

大木医師は大動脈から分枝する腎動脈などが動脈瘤に巻き込まれた胸部大動脈瘤に対して「枝付きステン ト」などを駆使しています。ただし、すべてが手術対象となるわけではありません。慈恵医大病院でも、受 診患者の約6割は破裂リスクが低いので経過観察になります。

腹部大動脈瘤が2007年1月に保険適用となって以降(胸部大動脈瘤は2008年7月に保険適用)、治 療を受けられる病院は増加しました。

ステントグラフト内挿術の実施医の条件

ステントグラフト内挿術の実施医になるには条件があり、関連10学会で構成する「ステントグラフト実 施基準管理委員会」の基準を満たす必要があります。

たとえば腹部大動脈瘤では「腹部大動脈・腸骨動脈瘤の治療(手術あるいはステントグラフト内挿術)を、 術者または助手として10例以上経験している」などの条件があり、最初の2例は指導医のもとで実施しな くてはなりません。

関係医療機関

東京慈恵会医大病院

湘南鎌倉総合病院

心臓・心房中隔欠損症のカテーテル治療

心房中隔欠損症

心房中隔欠損症は、心臓の左心房と右心房を隔てる筋肉の壁(心房中隔)に、生まれつき穴があいている病気です。約1500人に1人の割合で、起こるとされています。

本来、肺から左心房に入る新鮮な血液は、左心室を経て全身に送られますが、左心房の血液の一部が穴から右心房に流れ、肺に送り出される血液の量が増えてしまいます。

そのため、心臓や肺に負担がかかり、心臓が肥大するほか、肺に余分な血液がたまって、うっ血状態が続き、風邪や肺炎などにかかりやすくなります。幼児、小児期には症状が出ないことが多いいですが、進行すると、肺高血圧症という肺血管の病気や不整脈などを引き起こすこともあります。

これまでの治療法は、胸を切開して心臓の穴を直接縫い合わせるなど、外科手術が一般的でした。しかし、胸に約10センチの傷が残り、2-3週間の入院が必要になります。

カテーテル治療

これに対し、新しい治療法は、穴をふさぐ特殊な「閉鎖栓」を使います。形状記憶合金(ニッケルとチタン製)の細い針金を、二重の“傘”のように編んであります。

この栓を折り畳んでカテーテル(直径約3ミリ)の先端に入れ、足の付け根の静脈から挿入、エックス線や超音波の画像で見ながら、左心房に到達したところで、まず一つの傘を開きます。穴の位置に合わせて、もう一つの傘を開き、二つの傘で穴の周囲を挟み込んでふさぎます。

穴をふさぐ部分の栓の直径は、病状により6ミリから3・8センチまでさまざまです。治療は約2時間ほどで終わり、1週間程度、入院します。

このカテーテル治療は約8年前に米国で始まり、世界に広がりました。約3万人が治療を受けたとみられ、米国のデータでは98・5%で有効でした。

しかし、穴の大きさが3センチ以上になると、閉鎖栓の取り付けが困難になります。手術に比べ安全性は高いですが、治療後に栓が心臓の壁に当たって新たな穴があき、外科手術に切り替えた例もあります。

カテーテル治療を行っている病院

日本では、治療技術の向上を図るため、国立循環器病センター小児科部長の越後茂之さんが中心となり、研究会を設立しました。

治療を実施できる施設の条件として

1.先天性心疾患に対する、カテーテル治療の実施件数が一定以上ある

2.研究会が定めた新治療の教育プログラムを、受けた医師のみが行う

などを課しています。

現在、治療できる施設は国立循環器病センター、埼玉医大、岡山大の3か所ですが、「今後は増えるとみられます」と越後さんは話しています。閉鎖栓が輸入承認された昨年3月以降、計59人に治療が行われ、栓の脱落もなく、全例で経過は良好でした。

埼玉医大助教授の小林俊樹さんは「欧米では広く実施され、確立された医療です。肺高血圧症など合併症が出る前に治療を受けて欲しい」と話しています。

関係医療機関

国立循環器病センター

埼玉医大病院

岡山大学病院


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