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糖尿病

糖尿病の最新治療法


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糖尿病のインスリンポンプ

インスリン製剤の治療

1型糖尿病は、インスリンが出なくなるため、毎日のインスリン製剤の注射が一生欠かせません。

インスリンの分泌を詳しくみると、膵臓から常に少しずつ分泌される「基礎分泌」と、食事で血糖値が高 くなると多く出る「追加分泌」があります。

1型糖尿病のインスリン製剤の治療では

1.基礎分泌に相当し、効果が長時間続くタイプを就寝前に注射する

2.すぐに効果が表れ、追加分泌にあたるタイプを3度の食事の前に使う

など1日数回の注射が必要です。

しかし、量や注射のタイミングがうまく調整できないと、効き過ぎて低血糖になったり、足りずに高血糖 になったりすます。

インスリンポンプ

インスリンポンプは、携帯電話サイズのインスリン注入器で、患者の腹やももなど、皮膚の下に入れたカ テーテル(細い管)から、薬を注入します。一気に注入する注射と異なり、微量のインスリンを24時間、 自動的に流し続けます。これは基礎分泌に相当します。

インスリンポンプは、本体は服のポケットに入れて持ち運ぶことができますので、食事前などにスイッチ を押せば、追加分泌に相当する量を追加注入できます。

安定した血糖管理ができ、低血糖や高血糖の危険を減らせます。血糖値が上がりやすい夜中や明け方に増 やすなど、注入量を時間帯に合わせて設定できる機種もあります。

カテーテルの交換は1日または3日に1回でよく、注射する痛みや手間が少ない点も長所です。米国の研 究では、注射に比べ、ポンプを使った方が血糖の管理が良く、低血糖の発生回数も少なかったそうです。

このようにインスリンポンプは、膵臓の自然な分泌に近い注入が実現できる、簡単で安全な治療法です。 低血糖でけいれんなどの重い症状が頻繁に表れる人や、食事や睡眠が不規則な人などにもインスリンポンプ が向いていると言います。

ポンプを使うには医師の診察が必要です。保険がきき、患者の自己負担は、3割負担なら注射療法に比べ て1か月3000円高くなります。

関係サイト 糖尿病ネットワーク

糖尿病の膵島(すいとう)移植

Ⅰ型糖尿病患者が対象の膵島(すいとう)移植

重い糖尿病患者に、臓器提供者から心配停止後の採取した膵島を移植するのが「膵島(すいとう)移植」 です。糖尿病の根治が期待でき、臓器そのものを移植する膵臓移植に比べ、手術が簡単にすむなどの利点が あります。

インスリンは膵臓の膵島(ランゲルハンス島)と呼ばれる細胞の塊の中にある、β細胞で作られます。15 歳以下の小児期に発病しやすいⅠ型糖尿病では、この細胞が徐々に破壊されて、インスリンが分泌されなく なるため、インスリンの注射が必要になるのです。糖尿病の膵島移植はこうした、Ⅰ型糖尿病患者が対象に なります。

膵島移植の方法

膵島移植は、まず臓器提供者から摘出した膵臓組織を酵素でばらばらにして、膵島だけを回収します。こ れを患者の肝臓にある、門脈と呼ばれる血管に点滴注射します。門脈内が最も、膵島が定着しやすいためで す。定着した膵島は、血糖値の増減を感知して、インスリンを分泌するようになります。

1か月ほど入院して治療し、通常は1回の移植で血糖コントロールが大幅に改善しますが、根治を目指し て、移植は3回まで行われます。

膵島移植は臓器移植と比べて、メスを使わずに局所麻酔だけの1時間弱で終わりますので、患者の負担が 非常に少ないです。ただし膵島移植の場合も免疫抑制剤が必要で、口内炎や高コレステロール血症などの副 作用があります。

関連医療機関 京都大学病院

糖尿病性潰瘍や壊疽などに「創傷ケアセンター」

糖尿病性潰瘍や壊疽

糖尿病が悪化しますと、動脈硬化が進んで足の血管が詰まり、皮膚や骨が膿む壊疽(えそ)を起こします 。この場合は、足を切断するケースが多いです。

このような糖尿病性潰瘍や壊疽(えそ)の患者は増えており、70万人とも推定されています。このほか 、動脈や静脈の血流障害による潰瘍、床ずれ(褥瘡:じょくそう)など、なかなか治らない傷を総称して「 慢性創傷」と言います。

しかし、慢性創傷を治す体系的な技術や知識を持った医師は、日本にはほとんどいないのが実情です。担 当の診療科も決まっていません。

内科は糖尿病の治療はできるが、足の傷は不得手です。一方、骨を治療する整形外科も、細菌感染を伴う 場合は治療を避けがちになります。足の切断は、医師の治療経験が乏しい場合もあると言われてます

創傷治療の「創傷ケアセンター」

そこで、創傷治療が進んだ米国の医療マネジメント会社が、専門病院から検査・治療法などの情報を集め 、日本の病院での治療に導入したのが「創傷ケアセンター」です。腐りかけた足などの「再生」を目指しま す。その最も重要な鍵となるのが「血流」です。

専用の検査機器で血流を調べ、ある程度血流があれば、腐った部分切除して組織の再生を促します。血流 が足りないなら、バイパス血管を植えるなどの治療を行い、足の切断を回避します。

医療マネジメント会社は、このような治療手順書を病院に提供し、担当の医師や看護師には米国で研修を 受けてもらいます。実際の診療では、傷の大きさ、状態などの診療記録を送ってもらい、問題点を指摘した うえ、米国の創傷専門医との電話検討会を通し、治療法について助言します。

練馬総合病院など比較的治療経験の長い全国5か所の創傷ケアセンターでは、14週間以内での治癒率は 平均7割。別の病院で「足の切断が必要」と言われた患者のうち、4割は切断を回避できた。治療には保険 が使えます。

関係医療機関 練馬総合病院

関連ページ 床ずれ(褥瘡じょくそう)の「局所陰圧閉鎖療法」

糖尿病合併症

糖尿病の合併症は、主に3つあります。

  • 糖尿病神経障害
  • 糖尿病腎症
  • 糖尿病網膜症

糖尿病神経障害

糖尿病神経障害の症状

よくみられる糖尿病神経障害は、抹消神経障害と自立神経障害があります。

抹消神経は筋肉を動かしたり、痛みや温熱を感じたりする神経です。この神経系統に障害が起きますと、 痛みや熱を感じにくくなり、しびれやほてったりを感じたりします。

自立神経は内臓など、意志に関係なく自立的に動く内臓を、コントロールする神経です。この神経系統に 支障がでますと、胃腸や心臓、排尿関係のどの臓器の働きが鈍くなります。男性の勃起障害の一部も、自立 神経の障害が原因になります。

糖尿病の合併症の多くが神経障害と関係しています。以下が自覚症状です。

突発性難聴、不整脈、立ちくらみ(起立性低血圧)、発汗異常、しびれや冷え、疼痛(とうつう)、感覚 鈍麻、外眼筋マヒ(復視)、顔面マヒ、胃腸のぜんどう運動の低下、排尿障害、こむらがえり、勃起不全 (ED)

糖尿病神経障害の診断、神経機能検査

糖尿病神経障害の診断でもっともポピュラーな検査は、アキレス腱を軽くたたき、その反射の様子をみる 、腱反射検査です。

振動覚検査も、よく行われるけんさで、音叉を振動させて内くるぶしに当て、その振動を感じる時間を調 べます。

糖尿病神経障害の治療法

ほかの合併症と同じく、血糖値のコントロールが、糖尿病神経障害の治療基本になります。糖尿病神経障 害の場合は早期に発見して血糖値をコントロールするだけで、症状が消えます。

しかし症状が進み重症化した場合は、薬物療法が行われます。薬物療法で使用される薬は、症状を緩和す るものが中心となります。疼痛(とうつう)に対しては鎮痛薬や鎮静薬、抗けいれん薬など、立ちくらみ( 起立性低血圧)昇圧薬や副腎皮質ステロイド薬などです。

この他、糖尿病神経障害の治療全体に使用される薬としては、プロスタグランジンE1製薬やアルドース還 元酵素阻害薬、ビタミンB12製薬(医薬品としてのビタミンB12)などがあります。

糖尿病腎症

糖尿病腎症の症状

高血糖状態が続きますと、腎臓内の「糸球体」(しきゅうたい)という組織の毛細血管に障害が起きて、 腎臓機能が低下します。発症してもしばらくは自覚症状が無いため、発見が遅れたり、糖尿病腎症を甘くみ たりする原因になっています。

以下が、糖尿病腎症の自覚症状です。

  • 初期:息切れ、全身の倦怠、食欲減退
  • 進行期:頭痛、腹水、胸水

糖尿病腎症の検査

糖尿病腎症は自覚症状を感じてからでは、手遅れです。

糖尿病腎症の発症をとらえるには、定期的な尿検査を欠かさないことです。糖尿病腎症の初期の段階では 、微量のアルブミン尿(血漿タンパク質)が検出されます。

糖尿病腎症の治療法

ほかの合併症と同じく、血糖値のコントロールが、糖尿病神経障害の治療基本になります。高血圧をとも なっているケースが多いので、食事療法、また腎症を抑えるために、タンパク制限食も加わります。

高血圧をともなった腎症の場合の食事療法は、食塩摂取の制限です。1日の摂取できる食塩量は、6gが上 限になります。

腎症の進行を抑制する食事療法は、「低タンパク・高カロリー」が基本になります。

タンパク質の過剰な濾過(ろか)は、腎臓に大きな負担をかけますので、タンパク質の摂取量を制限しま す。ただしタンパク質は、生命を維持するために必要な栄養素ですので、必要最低限の摂取は、しなければ なりません。

高カロリーの理由は、腎機能の低下は、からだの抵抗力の低下をまねきます。そのため高カロリー食によ って、抵抗力の低下を防ぐのです。ただし糖尿病は、カロリー制限も必要になりますので、その兼ね合いが 非常に難しくなります。

症状が悪化した人は、人工透析が必要になります。

その他、喫煙者は禁煙をしてください。

糖尿病腎症の薬物療法

腎症の薬物療法では、腎臓を保護して腎症の進行を抑制する、アンジオテンシン変換酵素阻害薬、アンジ オテンシンⅡ受容体拮抗薬や、尿タンパクの排泄量を減らす塩酸ジラゼプ・ジピリダモールなどがあります 。

この他には、むくみや血圧を下げるための、利尿薬など症状に応じて使われます。

糖尿病網膜症

糖尿病網膜症の症状

糖尿病網膜症は高血糖により、眼底の網膜に栄養と酸素を供給する毛細血管が、傷を受けることにより発 症します。糖尿病網膜症は、失明原因の第一位になっている、恐ろしい病気です。

網膜症の初期の症状は、網膜の毛細血管に、こぶや小さな詰まりができます。局部的な出血がありますが 、視力への影響はありません。この状態は「単純網膜症」と呼ばれています。

進行期なりますと、血液成分がしみ出して、出血班が生じたりして、視力が低下することがあります。こ の状態は「前増殖網膜症」と呼びます。

さらに進行しますと、血流が悪くなるため、新たな血管(新生血管)がつくられます。しかし急に作られ た新生血管は破れやすく、大量出血につながります。これが眼底出血で、さらに進みますと網膜がはがれて 「網膜剥離」(もうまくはくり)を起こします。この状態になりますと、「増殖網膜症」と呼ばれ、視力は 大きく低下して、場合によっては失明します。

糖尿病網膜症の検査

糖尿病網膜症の治療は、早期発見が重要になります。そのためには年に一度は、必ず眼底検査をすること が必要です。

糖尿病網膜症の治療法

ほかの合併症と同じく、血糖値のコントロールが、糖尿病神経障害の治療基本になります。ただし、急激 に血糖値のコントロールをした場合、すでに起きている糖尿病網膜症が悪化する場合があります。すでに糖 尿病網膜症を発症している場合は、専門家に医師に、よく相談して血糖値のコントロールを行ってください 。

網膜症初期の単純網膜症の段階では、血糖値のコントロール、そして高血圧を合併している場合はその治 療を平行して行えば、進行を抑えることができます。

進行した前増殖網膜症の段階では、「光凝固療法」が中心的な治療法になります。「光凝固療法」は、虚 血に陥ったり、出血している病変部に、レーザー光線を照射して焼き固めて、出血を止める治療法です。

さらに進行した増殖網膜症の段階では、「光凝固療法」では対応できませんので、「硝子体手術」(しょ うしたいしゅじゅつ)と呼ばれる手術を行います。「硝子体手術」の効果はまちまちで、症状の進行を抑え る程度から、視力を完全に回復させる場合もあります。

低GI食品の効果効能

低GI食品とは

低GI食品とは、糖分の吸収をおだやかにして、肥満や糖尿病の改善や予防に効果がある食品のことです。

人は食事をすると、腸から糖分が吸収されて、血糖値が上がりますが、食品の種類によって、血糖値の上 がるスピードがちがいます。この血糖値の上がるスピードを数値化したものが、グリセミックインデックス (GI=グリセミック指数)といいます。

このグリセミックインデックス(GI)の数値が低い食品は、血糖値の上がるスピードが遅く、「低GI食品 」とよばれています。この逆で数値が高い物が、上がるスピードが早く「高GI食品」と呼び、中間の食品は 「中GI食品」になります。

各GI値は以下のようになります。

  • 低GI食品 GI値55以下
  • 中GI食品 GI値56~69
  • 高GI食品 GI値70以上

低GI食品の代表的なものは、海藻類(GI値20以下)や野菜(30以下)、大豆(30)などで、高GI食品には 精製された加工食品が多く、白米(85)そうめん(80)、フライドポテト(85)などがあります。

低GI食品がすぐに消化されないのは、未加工食品のため食物繊維などの「不純物」を多く含み、この「不 純物」によって消化酵素による高速分解から守られるためです。

低GI食品の肥満への効果

先ほど説明したように、人は食事を摂ると血糖値が上がりますが、膵臓(すいぞう)からホルモンのイン スリンが分泌されて、血糖値を下げてくれます。このインスリンは血液中の糖類を、グリコーゲンや脂肪に 変えて肝臓に蓄積させ、筋肉に吸収させて、血糖値を下げるのです。

インスリンによって筋肉に吸収させた脂肪が、肥満の原因である体脂肪なのです。つまりインスリンは「 肥満ホルモン」とも言えるのです。このためインスリンのコントロールが、重要になってくるのです。

白米などの高GI食品ですと血糖値が急激に上昇しますので、インスリンが過剰に大量に分泌されます。こ のため脂肪が大量に体に蓄えられていき、肥満になっていくのです。そのうえ過剰なインスリンによって、 血糖値が下がりすぎて、「低血糖」の状態なります。

人は血糖値が上がっているときは、満腹感を感じ、下がっている「低血糖」の時は空腹を感じるのです。 このため高GI食品を食べた1~2時間後には、もう「空腹感」を感じてしまい、また食べてしまうのです。

このように高GI食品を食べると血糖値が急上昇して、インスリンが大量分泌され、余分なカロリーは脂肪 として蓄積されていき、肥満の原因となります。

低GI食品はこの逆で、血糖値の上昇がおだやかなため、インスリンの分泌が適正量に抑えられ、血糖値の 急降下もないので「空腹感」も感じず、肥満を防いでくれます。

低GI食品の糖尿病への効果

低GI食品は糖の吸収がおだやかなため、インスリンがあまり効かなかつたり、分泌量が少ない、糖尿病Ⅱ 型の方の食事療法として使われている食品です。

血糖値の上昇がゆるやかなため、インスリイの分泌も適正な量しか分泌されないため、膵臓(すいぞう) への負担も軽減されますので、糖尿病の予防にもなります。

インスリンが突然枯渇する劇症1型糖尿病

劇症1型糖尿病とは

糖尿病には、患者のほとんどを占める生活習慣病の2型糖尿病と、インスリンが分泌されないために起こ る1型糖尿病があります。1型は糖尿病全体の5%程度と少ないですが、小児で多く、急性に発症するのが 特徴です。

その1型の中でも、極めて急激に発症する「劇症型」があることを大阪医大内科助手の今川彰久さんらが 2000年、米医学誌ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスンに初めて報告しました。

日本糖尿病学会は実態を把握する委員会(牧野英一委員長)を設置し、2004年2月、診断基準などを発 表しました。委員11人の医療施設で過去10年間に1型患者の222中43人(19%)が「劇症型」とみ られています。

劇症1型糖尿病の特徴

劇症型の平均血糖値は約800(ミリ・グラム/デシ・リットル)と、健康人(食後で140未満)の5倍以 上もあり、1000を超えることも珍しくありません。にもかかわらず、過去2か月の平均血糖値を示すヘ モグロビンA1cは、平均6.4%(正常値5.8%未満)と、それほど高くないのが際立った特徴です。

これは極めて短期間にインスリン分泌がなくなることを示しており、通常の健診ではわかりません。

男女差はほとんどなく、平均発症年齢は40歳前後。女性は妊娠中や出産後の発症が多いのも特徴です。 調査委の報告でも妊娠中に発病した場合、胎児は助からないことが多かったです。

患者は風邪や腹痛といった症状で受診することが多いです。ある男性(42)は口の渇きやおう吐で病院に 行き、薬をもらって帰宅しました。翌日、救急外来を受診しましたが、帰宅するよう言われました。翌日こ んすい状態に陥り、間に合わず死亡しました。

大阪医大内科教授の花房俊昭さんは、「急激に進行するため、治療が遅れると命にかかわります。多い病 気ではないのですが、特に開業医は、この病気のことを頭に置いておいてほしい」と警告しています。原因 は不明ですが、急激に発症することなどから、ある種のウイルス感染が引き金ではないかと疑われています 。

発症時の治療には、生理食塩水の大量補液と、インスリン療法が行われる。症状が落ち着いた後もインス リンを分泌する能力は失われているため、普通の1型糖尿病と同様のインスリン治療が必要です。

1型糖尿病と2型糖尿病の違い

1型では、膵臓のランゲルハンス島という組織にあるB細胞が、何らかの原因で破壊されてしまい、イン スリンを分泌することができなくなります。このため、血糖値を正常に保つために、インスリンを注射によ って外部から補給する必要があります。

一方、2型では、B細胞から分泌されるインスリンの量が不足して血糖値が下がらないケースと、インス リンの量は十分あるのに肝臓や筋肉などでの効きが悪く(インスリン抵抗性と呼ばれる)血糖値が下がらな い、2つのケースがあります。

全国で740万人と言われる糖尿病患者の95%は、食事や運動不足といった生活習慣による2型が占め ています。

関係医療機関 大阪医大病院

関連ページ 糖尿病の膵島(すいとう)移植

顕微鏡を使った新しい硝子体手術

硝子体手術

硝子体とは、眼球の内側にあるゼリー状の物質で、眼球の形を保ちます。網膜は、カメラで言えばフィルムの役割をする部位です。

硝子体手術は、糖尿病の合併症の一つである糖尿病網膜症や、原因は不明だが網膜に穴があく網膜剥離(もうまくはくり)、ものを見るのに最も重要な黄斑部(おうはんぶ)の疾患など、失明に至る恐れのある病気の治療の切り札として行われていて、精密で高度な技術が求められる手術です。

糖尿病網膜症は、網膜に余分な血管ができたり、薄い膜が張ったりして傷み、進行すれば失明に至ります。年間3000人以上が視力を失い、失明原因では最も多い。

早期ならレーザーで血管などを焼く治療も行えますが、血管から出血した場合や膜が増殖した場合には、手術が必要になります。眼内に差し入れた器具で濁った硝子体を吸引して人工の眼内液に入れ替え、増殖した膜を取り除きます。この手術をすることで完全に視力を取り戻せるわけではありませんが、進行を抑え失明を防ぐのが狙いです。

網膜剥離も、従来は剥離の程度がひどい場合や部位によっては修復が困難でしたが、目の内部から網膜を整える硝子体手術によって治療が可能になりました。

硝子体の新しい手術「顕微鏡システム」

藤田保健衛生大病院(愛知県豊明市)眼科教授の堀口さんは、この手術法を改良し、新しい手術顕微鏡システムを2002年に開発しました。

従来の手術用顕微鏡は、針状の照明器具を眼内に差し込んで一方の手で操り、もう片方の手で手術器具を扱います。眼内を照らす範囲が限られるうえ、組織をはがしたりするのに一方の手しか使えない制約がありました。そこで、照明器具を眼球に差し入れるのではなく、眼球の外から当てた光で硝子体全体を照らし出す顕微鏡装置を考案し、実用化しました。

光の当て方やレンズを工夫し、目の奥深くまで光が届くようにしました。硝子体内の全体が明るく見えるうえ、器具を両手で扱えるため、操作性や安全性が格段に向上しました。

糖尿病網膜症の治療では、一方の手で膜の端を持ち上げ、他方の手でカッターを使い切除するなど、これまではできなかった操作が可能になりました。「従来なら手術を断念していた重症例にも、治療の可能性が広がった」と堀口さんは話します。

硝子体手術では、濁った硝子体を取り除く際、引っ張られた網膜に、小さな穴があく合併症がしばしば起きました。手術中に発見してレーザーでふさぐ処置ができれば問題はありませんが、見落とされると穴は広がってしまい、新たな網膜剥離を起こす事態につながります。堀口さんは「硝子体内部を広く明るく照らし出す新システムでは、見落としによるミスを防ぐ効用も大きい」と話しています。

硝子体手術と自内障手術

私たちに最も身近な目の手術と言えば、白内障の手術です。白内障は主に加齢によって水晶体が白く濁ってしまう病気で、手術では濁った水晶体を超音波で砕いて吸引し、代わりに人工の眼内レンズを挿入します。

眼内レンズは直径5-6ミリで、小さな傷口で済むよう折り曲げて挿入できる柔らかい素材のタイプが普及しています。数日の入院か、日帰りでの手術も可能です。全国で年間80万件行われている。比較的安全確立された手術と言えます。

実は硝子体手術の大きな欠点のひとつが、手術の刺激によって、術後数か月から数年後に白内障が起きてしまうことです。このため高齢者では、硝子体手術を行う際、予防的に眼内レンズの手術も行われることが多いです。

関係医療機関 藤田保健衛生大病院(愛知県豊明市)

自己血成分(フィブロネクチン)点眼による角膜治療

角膜治癒を促進させるフィブロネクチン

点眼治療に用いられるのは、体になくてはならない糖たんぱく質の一つで、フィブロネクチンという成分 です。細胞と細胞を結びつけ、体の組織を作ったり、傷を治したりするのにかかわっています。

山口大眼科教授の西田輝夫さんは1980年代から、角膜の傷が治る際、フィブロネクチンが治癒を促進 させる重要な役割を果たしていることを初めて突き止め、治療への応用を研究してきました。

フィブロネクチンは、血液中に多く含まれています。ただし人の血液から採った成分を一般用の点眼薬と して使う場合、ウイルス感染の可能性があります。そこで西田さんは、患者本人から採った血液から、数時 間でこの成分を抽出して点眼薬を作る簡易装置を開発しました。自己血を用いることで、治療の安全性を確 保しました。

自己血成分(フィブロネクチン)点眼の治療法

患者は1週間に1度通院します。採取した10~20ミリ・リットルの血液から、1週間分にあたる2ミ リ・リットルのフィブロネクチン点眼薬が精製されます。患者が検査や診察を受けている間に出来上がり、 当日に点眼薬を持ち帰れます。1日4回点眼し、通常4週間続けます。

角膜の傷は、外傷のほか、角膜ヘルペス感染、糖尿病による神経障害で角膜の表面が損なわれる糖尿病角 膜症、三叉(さんさ)神経の手術後のまひ、コンタクトレンズによる障害と、多様な原因で生じます。

軽い傷なら、体内にあるフィブロネクチンの作用などで多くは治りますが、感染や神経障害が長引くと治 りづらくなります。自己血による点眼治療は、この成分を補って治癒を促します。

山口大病院で、2000年4月から2005年3月までに点眼治療した249例では、202例(81%)に効果 がみられました。障害の種類によっても効果に差があり、ヘルペス感染や糖尿病神経障害で角膜表面が損な われた場合(有効率74%)に比べ、外傷性(同94%)などには効果が高かったです。

山口大のほか、国立病院機構・東京医療センター(東京都目黒区)、眼科三宅病院(名古屋市)、宮田眼 科病院(宮崎県都城市)の4病院で、同大で開発した点眼薬の自動作製装置を用いた臨床試験が始まってい ます。

西田さんは「これまで有効な治療法がなかった角膜障害が治る可能性が高まりました。自己血で作るので 、安全性も高い」と話しています。

山口大病院ではさらに、治癒の難しい糖尿病角膜症やヘルペス感染後の角膜障害に、神経伝達物質(サブ スタンスP)とインスリンに似た成長因子(IGF―1)の成分から作った新しい点眼薬を開発して、フィ ブロネクチンだけでは効果がない患者への応用を進めています。

関係医療機関

山口大病院眼科

国立病院機構・東京医療センター

眼科三宅病院

宮田眼科病院

2型糖尿病向けの新しい治療薬「インクレチン関連薬」

インスリンの分泌を促す「インクレチン関連薬」

糖尿病の新しい治療薬が、相次ぎ登場しました。これまでの薬ですと低血糖や体重増を招くこともありま したが、多くの患者でこうした弊害を回避でき、血糖値の改善効果が出始めています。一方で既存薬との併 用や切り替えに問題がある例も報告され、新たな課題となっています。

2009年12月以降、糖尿病の9割以上を占める2型糖尿病向けに相次ぎ登場したのは「インクレチン 関連薬」です。インクレチンはホルモンの一種で、食事をすると腸管から出て膵臓(すいぞう)に働きかけ 、血糖値を下げるインスリンの分泌を促すうえに、グルカゴンと呼ぶ血糖値を上げるホルモンが出るのも抑 えてくれます。

インクレチンの特長は、血糖値が高い時だけ働くことです。そして2型糖尿病の人はこのインクレチンが 出にくいことがわかっていました。そこで開発されたのが、インクレチンの一種「GLP―1」に似た人工 ホルモンの注射薬「GLP―1受容体作動薬」と、「GLP―1」を壊してしまう酵素の働きを抑える飲み 薬「DPP―4阻害薬」です。国内では注射薬が1種類と飲み薬3種類(4製品)が販売されています。

「インクレチン関連薬」による糖尿病治療

都内在住の伍々早苗さん(58)は、8年ほど前から糖尿病の治療をしています。膵臓のβ細胞に直接働 きかけてインスリンを出す血糖降下薬で治療してきましたが、1~2カ月間の血糖値平均値(HbA1c) は正常値の2倍以上の12%で、血糖コントロールができませんでした。

そこで伍々さんにGLP―1受容体作動薬の注射薬「ビクトーザ(一般名リラグルチド)」を使用してみ たところ、2週間後に血糖値平均値(HbA1c)が10.7%、4カ月後には6.2%に下がりました。 伍々さんは「注射には抵抗もありましたが、痛みは少なかったです。最初は悪かったおなかの調子も治まり 、怖いぐらいに効いています」と話しています。体重も1キログラム減りました。

肥満体形で25年前から糖代謝に異常があり、放っておくと糖尿病に移行すると医師からいわれていた東 京都練馬区の本合雅史さん(61、仮名)も、飲み薬のDPP―4阻害薬「グラクティブ(一般名はシタグ リプチン)」を毎朝1回服用しました。半年でHbA1cは6.4%から正常値に近い同5.9%に下がり ました。体重増加も、ありませんでした。

2人の治療にあたった菅原医院(東京・練馬)の菅原正弘院長は「インクレチン関連薬だと、低血糖も体 重増加もみられず、患者さんの満足度も高い」と評価しています。

「インクレチン関連薬」は低血糖を回避

低血糖の症状は、血糖値が正常値の下限とされる血液1デシリットル中70ミリグラム未満になると、起 きことが多いいです。目まいや頭痛、吐き気に始まり、ひどくなると失神します。こうした 低血糖症状を経 験すると薬を飲むのが怖くなり、服薬をさぼり血糖コントロールを悪化させる一因でもありました。

従来の治療薬は血糖値を確実に下げる一方、「低血糖により耐え難い空腹感が生じ、さらに食べて太ると いう課題があります」と東京大学の門脇孝教授は話します。太れば脂肪が出す物質の影響で、インスリンが 効きにくくなります。

「新薬は従来薬と比べ、血糖降下作用はそれほど強いわけではありませんが、併用でスルホニル尿素(S U)薬の量を減らせるのが利点になります」。こう話すのは多摩センタークリニックみらい(東京都多摩市 )の宮川高一院長です。

スルホニル尿素薬はインスリンの分泌を促進させる薬で、国内で最も多く使われている治療薬ですが、低 血糖を起こしやすかったり、長期に大容量で飲み続けたりすると、膵臓のβ細胞が疲弊する原因にもなると いわれています。

治療の初期に新薬との併用などでスルホニル尿素薬の量を減らせば「高齢になってどうしても血糖値 が 下がらなくなった段階でスルホニル尿素薬を増量していける」と宮川院長は話します。

「インクレチン関連薬」の副作用

もちろん、「インクレチン関連薬」にも副作用はあります。60代の男性2人が、従来のインスリン製剤 からGLP―1受容体作動薬の注射薬に切り替えたところ、高血糖を起こして血液中に代謝産物が異常に増 え、死亡しました。DPP―4阻害薬をスルホニル尿素薬と併用する65歳以上の高齢者を中心に、重症の 低血糖を起こす事例も続きました。

死亡例が出たことに専門医らは「新薬の使用は患者自身のインスリンが一定量出ていなければならない」 と強調します。発症時からインスリンが不足する1型糖尿病や長期に2型糖尿病を患い、既にインスリンが 枯渇している人には使えません。

東京女子医科大学の岩本安彦教授は「新薬による治療の前に、インスリン量が不足していないかをきちん と検査して確かめなければならない」と指摘します。

また、スルホニル尿素薬との併用者に起こった極端な低血糖は「科学的には分かっていません。ただ、ス ルホニル尿素薬の効き目を高めた可能性もあります」と岩本教授は話します。岩本教授らは高齢者や腎機能 が低下している人には、スルホニル尿素薬を減量するよう推奨しています。

関連医療機関

菅原医院(東京・練馬)

多摩センタークリニックみらい(東京都多摩市)

肥満の減量手術

肥満治療

大分県在住の40歳代の女性は、20代で2度出産したのをきっかけに、体重が増えました。出産前の約60キロ・グラムから、90キロ・グラムを超え、体を少し動かすだけで動悸(どうき)を感じるようになりました。

大分大病院の肥満外来では、食事療法などを試みましたが、効果がありません。そこで、胃の容積を減らしたり、胃の入り口を狭くしたりする外科治療を受けました。その結果、食べる量が減り、1年半で約20キロ・グラムの減量に成功、高かった血圧やコレステロール、肝機能などの数値も正常に戻りました。

肥満は、糖尿病などの生活習慣病の原因になります。日本肥満学会は、国際的な肥満指標BMI(体重〈キロ・グラム〉を身長〈メートル〉の2乗で割った数値。標準は22)で25以上を肥満とし、高血圧、糖尿病などの合併症がある場合、減量が必要としています。

肥満の治療は一般に、食事療法や運動療法、食欲を抑える薬物療法などを組み合わせて行います。それでも改善されない重い肥満は、外科治療の対象となり、欧米などで年間14万例以上が行われています。

日本では主に開腹して胃を小さくする手術が一部の医療機関で行われてきましたが、体を大きく傷つけるため、実際に受ける患者は少なかったです。

2つの減量手術

そこで大分大病院は、体への負担が少ない2つの方法を2004年末から導入しました。胃に風船(バルーン)を入れる「胃内バルーン挿入法」(BIB)と、胃の入り口をバンドで縛る「胃バンディング術」です。

胃内バルーン挿入法は、直径約10センチのシリコーン製の風船を胃の中に入れ、胃の容積を小さくし、食べ物の通過時間も遅らせて食事の量を減らします。

口から入れる内視鏡で、しぼんだ状態の風船を胃に入れ、生理食塩水約0・5リットルを入れて膨らませます。施術時間は十数分間で、入院期間も3~4日と短いです。ただし、風船の耐久性や効果の持続性などから、胃の中に風船を入れる期間は最長でも半年です。

同病院でこれまで実施した17人では、施術後5か月で体重が平均10キロ・グラム以上減りました。

一方、胃バンディング術は、腹腔(ふくくう)鏡で腹の内部を見ながら、胃上部をシリコーン製のバンドで締める方法です。少量ずつ、ゆっくり食べるようになって満腹を感じ、食事の量を減らします。

腹腔鏡やバンドを入れるための小さな穴(直径約5ミリ~3センチ)を腹部に開けることから、手術時間は約2時間、入院も5~6日ほど必要ですが、開腹手術に比べ、負担が小さいです。バンドは交換せずに使えるため、胃内バルーン挿入法を行ってから、胃バンディング術を受ける人も多いいです。実施した12人では、体重が1年で平均20キロ・グラム以上減りました。

いずれの治療も、退院後に通院、効果や副作用のチェックが必要です。同大では現時点で、どちらの方法も重大な副作用はなく、糖尿病など肥満に伴う生活習慣病も、過半数の患者で軽くなりました。

ただし、肥満治療の基本はあくまで、食事療法や運動療法です。大分大教授の北野正剛さん(消化器外科)は「外科治療は最終手段。他の治療で効果がなく、BMIが35以上で、重い高血圧、糖尿病など生活に支障のある合併症を持つ患者に限ります」と話しています。BMIが35以上の人は、成人の0・5%程度とされています。

治療は自費診療となり、大分大病院では胃内バルーン挿入法が十数万円、胃バンディング術は約50万円程度かかります。

日本肥満学会などは、これら2つの治療を安全に普及させるため、当面は大学病院などに限って導入する方針です。

その他の減量手術

腹腔鏡下ルーワイ胃バイパス術

最近のアメリカ肥満外科学会などではこの胃バイパス手術がゴールドスタンダードとなってきて、現在アメリカで最も多く行われている減量手術です。

腹腔鏡下袖状胃切除術

胃の大半を切り取り、胃をバナナ1本くらいの大きさにして食事摂取量を制限する手術です。

腹腔鏡下十二指腸転換を伴う胆膵バイパス術(十二指腸スイッチ手術)

この手術はおもに栄養吸収を制限することにより減量をおこないます。

腹腔鏡下スリーブ・バイパス術

手術の基本コンセプトは胃バイパス術と変わりません。すなわち、食事摂取量制限と栄養吸収制限のコンビネーションの手術です。

重症肥満に対する二期的手術

BMIが60をこえる重症肥満の方は、一度で手術をすると死亡率が高くなるといわれています。そのような方には、安全のため一回目の手術で胃を小さくして減量をはかり、減量がとまったところで胃バイパス術をするという二期的手術を行います。

関係医療機関

大分大学病院

東京大学病院

四谷メディカルキューブ


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